なぜ人が眠るのかは神経科学の最大のブラックボックスの1つだ。そういわれるぐらい睡眠には未知の分野が多く残っている。とは言え、はっきりと分かってきたこともある。一般的には誤解も少なくない、3つの点について説明しよう。
まず、1つめは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)。私自身がSASと診断されたのは、2019年のこと。最初に診察を受けたのはその数年前。睡眠時にいびきをかいていたため、かかりつけ医に紹介状を書いてもらい、大学病院を受診した。ぎりぎり標準体重の私を見た医者は「あなたよりもっと太った男性がかかる病気だから心配はいりません」と言った。
2020年に渡米して大統領選挙を取材する予定だった私は、少しだけ睡眠薬の予備を持っていたい、と思い、近所の〈スリープレストクリニック幕張〉を受診した。院長の岩根隆太は私を見るなり「SASの疑いが濃厚ですね」と言い切った。検査を受けると、約8時間の睡眠時間中に、無呼吸低呼吸状態が200回以上あった。1時間当たり約30回で、重症に近い中等症だと分かった。

SASとは、睡眠時に軟口蓋や舌が気道を防ぐことにより、気道が閉塞して無呼吸状態に陥ることを指す。1時間当たり10秒以上呼吸が止まることが5回以上あれば診断される。診断後は、通常、CPAP(持続陽圧呼吸療法)装置を付けることで、睡眠中も気道を確保する。
「お相撲さんのように太った男性がなるのは、気道狭窄型(きょうさくがた)です。横田さんのように顎が細く、引き気味な人は、舌根沈下型(ぜっこんちんかがた)と呼ばれ、肥満でなくても呼吸が止まることがあります。このタイプが病院でも見落とされがちです」(岩根隆太)
日本には中等症以上の患者が推定900万人前後いる。一方、CPAP治療を受けている患者は60万人台。治療しないと5年後の生存率は84%、8年後には60%に下がる。患者の約5割が高血圧を合併し、脳卒中や心臓病、肝臓病につながる。糖尿病のリスクは2倍となり、脳卒中のリスクは3倍となる。
SASから身を守るカギは、いびきだ。筑波大学名誉教授の佐藤誠はこう話す。
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