犯罪率と起訴率 数字で考える「外国人問題」

データと研究から見える実態

五十嵐 彰 大阪大学准教授
ニュース 国際

いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 2025年の参議院選や自民党総裁選は、多くの未確認情報に彩られた。参政党の神谷宗幣や自民党の高市早苗などが外国人に関わる過激な主張をし、その真偽が問われたものの、参政党の躍進や自民党総裁就任などの成功を収めている。ここで共通しているのは、全体の傾向を示すデータや過去の研究などに基づかず、自分の実感や見聞などに基づいて議論を展開するところだろう。一部で共有されているストーリーに基づき、そのストーリーを全体に当てはめて持論を展開するのだから、当然現実とは大きく乖離する。たとえば筆者には2メートル近い身長の知り合いがいるが、しかしだからといって日本人は全員背が高い、とは言わない。日本人全体の傾向を見たければ、平均身長(とそのバラツキ)を当然みるものだ。しかし一部の政治家は、2メートル近い身長の人々を念頭に置いて身長に関する話を進め、果ては政策にまで移そうとする。

 こうした傾向は一般の有権者にも共通して見られる場合がある。不安定な情勢が続く社会であるからこそ、自分の実感を疑い、データや過去の研究に学ぶことが重要となる。本稿では、特に外国人と犯罪に関して筆者や欧米の研究者が行った研究を紹介し、これからの日本社会を考える材料を提供したい。

画像はイメージです ©アフロ

 外国人と犯罪はとにかく結びつけられやすい。しかしながら、この結びつきは多くの場合影響力のあるストーリーに基づいて形成されており、必ずしも過去の研究や統計情報に基づいたものではない。筆者が過去に実施した調査では、日本の刑事事件で検挙された人のうち、何%が外国籍の人によるものかを日本人回答者に尋ねている。外国人による犯罪率は実際には5%にすぎないが、回答の平均値は31%に達し、現実と大きく乖離した値を示していた(※1)。

 日本人は、外国人による犯罪率を実際の値よりも大幅に高く見積もっているということを指している。外国人が増えると治安が悪化する、と発言する人が増えたり、政府が「違法外国人ゼロ」というスローガンを掲げたりしているが、その背景にはこうした過剰な見積もりがあるのかもしれない。

 外国人が罪を犯すというストーリーを形成する際に、メディアが果たしている役割は無視できない。テレビや新聞をはじめとしたメディアは、容疑者が外国人の場合はいまだに国籍を報道しているが、日本国籍の場合には特に触れたりはしない。こうした報道は、移民に対する否定的な態度を醸成することに明確に一役買っている。たとえばドイツでは、仮にドイツ国籍であっても容疑者の国籍を常に報道するようになり、その結果人々の移民に対する否定的な態度が緩和した(※2)。テレビや新聞といった日々目にする情報源が外国籍と犯罪と国籍とを継続的に結びつけることで、人々が外国人に対して否定的な感情を抱くようになるのである。

 筆者が行った先ほどの実験には続きがある。筆者の実験は、人々が統計情報でなく、想像や印象に基づいて、外国人による犯罪に関する「知識」を形成しているということを示唆する。それではこうした回答者に、実態を教えるとどうなるだろうか。結論からいうと、正しい情報を提示されると、その情報に基づいた「知識」を形成することがわかった。外国人による犯罪率を尋ねた後、ランダムに選ばれた一部の回答者に対し、外国人犯罪率が5%であるという正しい統計情報を提示し、その半年後に再度同じ回答者に対して、外国人犯罪率を尋ねた。結果、正しい情報を提示された群は、そうでない群と比べ、外国人犯罪率を大幅に低く回答する傾向にあった。ここから、正しい知識を与えられた群は適切にその情報を処理し、仮に半年経っていたとしても、誤解に基づいた犯罪率推計をしなくなるといえる。正しい情報を継続的に伝えることの重要性がここからわかるだろう。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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