恩師から学んだ新しい数学を作る方法
「アーベル賞」は傑出した業績を挙げた数学者に与えられる賞として、ノルウェー議会によって2002年に創設された。「アーベル」とは、1802年生まれのノルウェーの偉大な数学者ニールス・アーベルのことで、楕円関数の研究などで知られる。賞金は750万ノルウェー・クローネ(約1億円)。ノーベル賞に匹敵する額だ。
今年のアーベル賞は、京都大学数理解析研究所(以下、数理研)特任教授の柏原正樹氏に授与された。日本人数学者が受賞するのは初めてのことだ。
柏原氏は1947年生まれの78歳。東京大学理学部数学科に在学していた大学4年生の時に、日本を代表する数学者である佐藤幹夫(1928〜2023)と出会い、研究の道に進んだ。授賞式のためにオスロに渡航する直前に話を訊いた。
アーベル賞の受賞は予想外の出来事でした。私が所属する京都大学数理研の大木谷耕司所長から「今日の午後4時にZoom会議があるから参加してください」と言われて、何の会議なのかと思いながら出たら、画面に外国の方がいっぱい並んでいた。これはいったい何だろうと訝(いぶか)しく思っていたところ、受賞を知らされました。寝耳に水と言いますか、本当に驚きました。
師との出会い
私が数学の研究を始めたのは22歳のころ。かれこれ50年以上数学の研究に携わってきました。特定の論文や業績ではなく、長年の研究成果を評価しての授与だと説明されました。受賞理由を聞くうちに、数学のなかの複数の分野を横断し、結びつけるような研究が評価されたことがわかりました。

数学は大きく分けると、微積分や微分方程式を扱う「解析」、数を調べたり、文字式を扱う「代数」、そして形を記述することで物事を数学に落とし込む「幾何」の3分野があります。たいていの数学者は、1つの分野に沈潜し、掘り下げていくのですが、私はそれらの分野をつなげながら研究をしてきました。最初は解析と代数を横断する研究から始まって、幾何に移り、そして今は代数の研究をしています。
私が修士論文などで扱った「D加群」の仕事と、その後行った「表現論」の仕事は一見すると別の分野の研究です。そういうこともあって、どうも別の「Kashiwara」さんによる仕事だと思う人も多い。どちらも私によるものだと気づいた人にびっくりされることもありました。
D加群は解析と代数を結びつけた研究でした。表現論へはD加群の応用先を探して辿り着いた。ですから、D加群と表現論は私のなかでは自然につながっています。また、数学という学問の本質から考えても、これは不思議ではありません。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
今だけ年額プラン50%OFF!
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
オススメ! 期間限定
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
450円/月
定価10,800円のところ、
7/31㊌10時まで初年度5,400円
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2025年7月号