(1)昭和海軍の「功」と「罪」|「陸軍=悪玉、海軍=善玉」は正しくない
保阪 昨年の『文藝春秋』12月号で「昭和陸軍に見る日本型エリート」という座談会を行いました。陸軍のエリート軍人たちが、なぜ道を誤り、日本を敗戦へと導いてしまったのか、その人物像や行動様式を分析することで、現代への教訓を学ぶという趣旨でしたが、読者からも大いに反響があったようです。
楠木 前回参加しましたが、昭和陸軍の問題点は、現在の官僚組織や大企業の経営陣にも驚くほど当て嵌まっていました。大局観を持たず自分本位な人事ばかりを行った東條英機や、異能の持ち主でありながら組織では生き残れなかった石原莞爾、さらには杜撰な計画のもとインパール作戦に突き進んで大量の死者を出した牟田口廉也など、実に様々なタイプがいて印象深かったです。
保阪 今回は、昭和海軍について話し合います。これまで多くの海軍参謀に会ってきましたが、印象として共通しているのは、皆さん非常に頭が良いということ。例えば、参加した作戦の成功や失敗を客観的に把握していて、理路整然と語ってくれる。そこが陸軍とは違う。当時の海軍という組織には、近代日本の中でも、類稀なほど優秀な人材が集まっていたのだと実感しました。
楠木 私のように旧軍について一般的な知識レベルの者からすると、好戦的なイケイケドンドンの陸軍に対して、海軍は理知的でスマートなイメージが強いのですが、本当のところはどうなのでしょうか。
河野 私は、海上自衛隊で護衛艦艦長、海上幕僚長、統合幕僚長などを務めましたが、実は父も海軍の軍人でした。私が防衛大学校に入った時、父から「絶対、海上自衛隊に行け」と勧められ、少なくとも陸上自衛隊の選択肢はなかったですね。それくらい海軍に対する愛着はすごかったです。
海軍精神を表す「スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」という標語が今も海自で語り継がれているくらい、海軍には礼儀作法を重んじる、理知的な文化がありました。自己陶酔型や独断専行型の目立つ陸軍に比べると、紳士的に見えるのかもしれません。
ただ、歴史を冷静に見れば、海軍も組織として深刻な問題を抱えており、決して「陸軍=悪玉、海軍=善玉」とは言えません。
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source : 文藝春秋 2024年5月号