松下幸之助(1894年〜1989年)
小林一三(1873年〜1957年)
本田宗一郎(1906年〜1991年)・藤沢武夫(1910年〜1988年)
出井伸之(1937年〜2022年)
柳井 正(1949年〜)
経営者の中から代表的日本人を選んだ。渋沢栄一が入っていないじゃないか、という声があるかもしれない。渋沢は数多くの企業の経営に携わったが、経営者というよりは日本の資本主義の基盤を創った経済人。その本領はマクロの経済システムの設計にあった。ミクロの次元にある個別企業の経営は経営者の個性が如実に出る。筆者なりの切り口でそれぞれの人物像に迫ってみたい。敬称はすべて略す。
松下幸之助――言葉の力
「経営の神様」と称された松下幸之助。日本のオールタイム経営者番付で東の正横綱を張るのは依然としてこの人だろう。
1965年に幸之助は新聞に意見広告を出した。タイトルは一言、「儲ける」。「今日、企業の儲けの半分は、税金として国家の大きな収入源となり、このお金で道路が造られたり、福祉施設ができたり、また減税も可能になり、直接に間接に全国民がその恩恵を受けているのであります。……みなさま、適正な競争で適正に儲けましょう。そして、国を富ませ、人を富ませ、豊かな繁栄の中から、人びとの平和に対する気持ちを高めようではありませんか」――名ばかりの「パーパス経営」が横行する昨今、経営の王道を往く言葉にはひときわ重みがある。
どんなに優れた経営者でも一人でできることには限りがある。人に仕事をしてもらうのが経営だ。病弱だった幸之助にとって、経営はとりわけ切実な問題だった。その原点にして頂点が個別事業を一つの会社に見立てて運営管理する事業部制だ。幸之助は経営までも人に任せた究極の経営者だった。
言葉の力は経営者に必要な資質の中でも最上位にある。言葉でなければ伝わらない。自らの言葉で人を動かし、組織を動かし、商売を動かす。幸之助は言葉の力において傑出していた。
自著『道をひらく』。世界中で読み継がれるベストセラーだ。有名な最初の一篇「道」はこう始まる――「自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。どんな道かは知らないが、ほかの人には歩めない。自分だけしか歩めない、二度と歩めぬかけがえのないこの道」。エンディングは「それがたとえ遠い道のように思えても、休まず歩む姿からは必ず新たな道がひらけてくる。深い喜びも生まれてくる」――小学生でも読める平易な文章だ。
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source : 文藝春秋 2023年8月号