保阪 かつて日本を敗戦へと導いた陸軍や、そこに属するエリート軍人たちの問題点は、多くの研究者・作家・ジャーナリストに指摘されてきました。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)はまさにその代表例で、ベストセラーとして今でも読み継がれています。
しかし、国家や組織を率いるエリートの問題は過去の話ではありません。現代でも日本の巨大組織には、派閥争いに明け暮れ、名誉欲に駆られて過ちを犯す輩が後を絶たない。霞が関の官僚しかり、大企業の上層部しかり。時代を超えても、日本のエリート層の行動様式は変わっていないのではないかという問題意識を私は持ち続けてきました。
そこで昭和陸軍のエリートたちの人物像・行動様式を分析することで、いつの時代も変わらぬ「日本型エリート」の“失敗の本質”を探りたいと思います。
川田 これまで永田鉄山や石原莞爾など幾人もの陸軍軍人の研究をしてきましたが、彼らの中には、良識もあり、教養もある人物も多い。しかしながら組織の論理の中で失敗してしまった、才能が埋もれてしまった例は、枚挙に暇がありません。
新浪 私はまさに先ほど保阪さんが挙げられた『失敗の本質』を三菱商事に入って3、4年経った頃に勉強会で読みました。1980年代半ばでしたが、その後、バブルが崩壊し、自分も経営者となり、複数の企業でマネジメントする立場になりました。その過程で「リーダーとはこういうものだったのか」と、『失敗の本質』でも描かれている戦略、人事など実際に実行することの難しさも体感してきました。改めて太平洋戦争の時代や、当時の軍人たちの行動原理を考えることは、日本型の組織を動かすにあたって重要だと思っています。
信頼できる3人の軍人
楠木 陸軍にも、悪い人ではないのだけれど無能だったり、いい人ではないけれど結果的に有能だったり、様々なタイプがいると思います。例えば東條英機。私は普段、企業の競争戦略を研究していますが、保阪先生の『東條英機と天皇の時代』(ちくま文庫)を読んで彼に興味を持ちました。真面目な軍官僚で、「悪玉」と一口には言えない。旧ジャニーズ事務所の上層部よりは、まともなトップかもしれません。
しかし、軍隊という極めてシリアスな組織のトップや首相としては、東條は無能な人だったと言えるでしょう。今日は、昭和の軍人たちが組織の中で有能だったか、無能だったかという観点から、意見を述べさせて頂ければと思っております。
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