「塾歴社会」が生む虚しきエリート

医療と教育を再生する

おおた としまさ 教育ジャーナリスト
ライフ 教育
おおたとしまさ氏

 灘中学受験後、新幹線で帰京する車内で母親たちが中学に入ってからどの塾に通うのかを議論している。「鉄緑会だの平岡塾だののほか、聞いたこともない塾の名前も飛び出す」。過熱する中学受験をノンフィクション小説として描いた拙著『勇者たちの中学受験』での一幕だ。

 彼女らの息子は中学受験生の中でも成績最上位層に位置する。筑駒(筑波大学附属駒場)、開成などの他、最難関中学合格を総なめにするためにわざわざ関西にも遠征している。第一志望に合格することは大前提で、中学受験を終えたらすぐに、東大受験対策で高い実績を誇る塾にわが子を通わせる気満々なのである。

 開成、筑駒、灘、桜蔭……。最難関大学に多くの生徒を送り込む超進学校の数はそれなりにある。特に私立の場合、個性的な校風があり、多様性に富む。しかし、学歴社会の最上位層に位置する彼らが通う塾は、実はごく一部に限られている。

 その筆頭が「鉄緑会」だ。受験ヒエラルキーの最難関である東大理Ⅲ(医学部系)の定員は毎年約100人だが、2022年度の入試における鉄緑会からの合格者は56人。合格者の6割近くを一つの塾が占める。京大医学部の定員も約100人だが、鉄緑会からの合格者数は52人。

 誰でも鉄緑会に入れるわけではない。入塾テストが難関だ。しかし首都圏では、筑駒、開成、桜蔭など、いわゆる中学受験最難関の十数校だけが「指定校」になっており、中1の春に入塾する場合のみ入塾テストが免除されるしくみがある。

 筑駒中高全生徒約840人のうち7割以上に当たる602人が鉄緑会に通っている(2022年10月時点)。同様に開成では5割以上、桜蔭では約6割が鉄緑会だ。これら指定校の華々しい最難関大学合格実績の裏には鉄緑会の存在がある。

 最難関大学合格のことだけを考えるならば、どの学校に行くかよりも、鉄緑会に入るか否かが重要だといっても過言ではない。その意味で冒頭の母親たちの会話は“正しい”。「学歴」よりも「塾歴」というわけだ。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ライフ 教育