石破・トランプ会談と日米政治史の教訓

第53回

保阪 正康 昭和史研究家
ニュース 政治

石破の対米外交に必要なのは湛山のプラグマティズムだ

 石破茂首相は、2月7日(日本時間8日)、ワシントンのホワイトハウスで、ドナルド・トランプ米大統領と初の首脳会談を行い、共同会見に臨んだ。

 首脳会談が実現するまで、日本では石破とトランプの関係性が危ぶまれていた。これまでトランプはもっぱら安倍晋三元首相との親密な関係を強調する形で語られてきた。一方、石破は安倍政権の独裁的な政治手法に対して保守の原則に立って諫言する、自民党内で数少ない、ほとんど唯一と言ってもいい政治家であった。安倍・トランプの親密な関係が振り返られるたびに、自民党のなかで安倍と対照的な位置に存在してきた石破はトランプと渡り合えるのかといった声があがっていたのだ。

ホワイトハウス前で石破総理を出迎えたトランプ大統領 ⒸAFP=時事

 トランプと石破が居並ぶ光景は、アメリカの巨大な矛盾が生んだ怪物的な大統領と、礼節を尊ぶ日本の篤実な首相というコントラストが際立った。石破はトランプのような政治家が苦手なのではないだろうか。日本にトランプ型と言えるような政治家がいるとは思わないが、大衆の欲望をダイレクトに反映する無手勝流の政治家とは、石破はこれまでの政治人生のなかで距離を置いてきたという印象がある。政策面は別として、田中角栄はキャラクターにおいてはトランプと重なる部分があり、石破は角栄を師として語ることが多いので、これは例外であるが、石破は角栄の大衆性を充分には受け継いでいないし、トランプ的な指導者を攻略する術を身に付けていたとは言えないであろう。

 石破は自派閥である水月会を大きくしてこなかった。かつてこの派閥には、前経産相で自前の歴史観を持つ齋藤健や、超党派議連「石橋湛山研究会」の幹事を務める古川禎久元法相など個性ある政治家が在籍していた。だが齋藤、古川を含めて離脱する者もあり、勢力を拡大してきたとは言いがたい。石破は政治テーマを深く議論することを重視してきたのだろうが、人づき合いを深め、広げることは得手ではないのではないか。

異次元の大統領との対峙

 トランプは、石破の生真面目な保守政治議論が通用する相手ではなく、異次元の大統領として石破の前に立ち現れたはずだ。石破は相当に事前の準備をしたと思われる。安倍が対トランプの通訳として重用した外務省の高尾直日米地位協定室長を再び起用するなど、チームとしての対策も入念だったのだろう。

 後に詳述するが、今回の首脳会談はお互いの様子見のなかで握手の延長線上の友好関係を確認し合ったという意味では、石破はトランプとよく渡り合い、首脳会談をうまく乗り切ったと感じた。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2025年4月号

genre : ニュース 政治