冷徹なユダヤ系の知性がアメリカの中枢に存在した
今年は「昭和100年」「戦後80年」という節目の年に当たる。私は、近現代史を検証してきた者として、現在の日本には「真正保守」の思想的な立場が必要であると考え、その再興を模索しているが、混迷を深める日本と向き合って、また、再びトランプ時代を迎えたアメリカと対峙して、「昭和100年」「戦後80年」という二つのタイムスパンから、いま何を汲み取るべきであろうか。
前回は、アメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプの勝利を私たちはどう受け止めるべきかを示そうとした。そのためには、170年を超える日米の関係史を振り返る必要があった。
つまり、アメリカの東インド艦隊司令長官マシュー・ペリーの来航から、岩倉使節団の欧米視察、不平等条約の改正、日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争、真珠湾攻撃と日米開戦、日本敗戦と連合国軍による占領、そして占領によって軍事主導体制をアメリカン・デモクラシーに転換されるまでを見つめ直した。
戦後、私たちはアメリカン・デモクラシーをデモクラシーの手本として受け入れてきたが、それは占領前期と占領後期ではまったく性格を変えている。前期の方向性は民主化、非軍事化であり、後期は軍事をともなう反共主義であった。つまり、アメリカン・デモクラシーとは「アメリカの国益に合致する民主主義」に他ならず、私たちはそれを超える「普遍的な民主主義」を思考し実践する必要がある。
さらなる問題は、アメリカン・デモクラシー自体が本国アメリカで重大な隘路(あいろ)に突き当たり、日本もその影響下にあるということだ。アメリカ社会は新自由主義的な弱肉強食を極端な形で現実化してしまい、そこでは富み栄える者と貧しさのなかに置かれた人々の格差はいよいよ開いていく。そうした社会状況下、大統領選挙では、疎外された人々がトランプのほうに変革の希望を見出したのではないかというのが私の見方であった。民主党と会派を組む、左派の上院議員バーニー・サンダースが発した「労働者階級を見捨てた民主党が労働者に愛想をつかされた」という、自らの陣営を強く批判するコメントは、事の本質を言い当てていると感じ、それを引用もした。
日本のメディアの報道や識者の予想は、接戦であったり、カマラ・ハリス優位というものが多かったように思う。これは、取材力が弱くなっていることや、歴史を踏まえて現在を見る態度が欠落していることなどに起因し、総じて私たちのアメリカ観が一面的になっていることの現れではなかったか。
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