岸田首相の退陣表明には戦争への反省が欠けていた
8月14日に岸田文雄首相は首相官邸で会見を開き、9月27日に投開票が行われる自民党総裁選に出馬しない意向を表明した。「総裁選では自民党が変わる姿、新生自民党を国民の前にしっかり示すことが必要だ。自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べ、裏金事件への責任を取る意志を見せようとしたと思われるが、実際には、国民の政治不信が変わらず、内閣支持率は低迷するなかで、党内からの、岸田首相では次の衆院選を戦えない、総裁選で勝てない可能性すらあるという重圧に屈したということであろう。
私はこの会見を、脱力するような感覚と、醒めた目で見ながら、感じたことが二つある。二つは互いにつながり合う重大な問題を示しているとも言えるのだが、まずは書き出してみよう。
(1)岸田首相の言動には歴史観がない。
(2)戦争への反省、戦死者への思いが感じられない。
8月15日前後の日々は日本人にとって、先の大戦における310万人以上の戦死者を悼み、その御霊安からんことを祈る日なのである。あやまちを繰り返さないことを心に刻む誓いの日でもあり、それはより客観的に表現するなら、歴史的な責務を負った日と言うことができよう。その特別な日に、この日でなければならない理由が見えないままに、自らと、自らの政権と、自民党のエゴイズムにもとづく退陣表明を行うというのは、岸田首相の歴史観のなさを浮き彫りにするばかりであった。
今回はまず、「慰霊と誓い」の季節が今年いかなるありようを見せたかを細密に描き出し、いまの政治の陥没状況をあぶり出してみたい。
8月15日を知らない若者
私は8月15日前後には様々なメディアから執筆依頼や取材を受け、テレビの報道番組などで語る機会もあったが、そこで、いまの若者が、かつて8月15日に何があったかをまったく知らないという例をいくつか聞かされた。これには驚くと同時に、歴史を語り継ぐことが不充分だった私たち先行世代の責任を感じるものであるが、岸田首相の歴史意識は、歴史を知らない若者と同列であるとさえ言える。むろん多少の知識はあるにせよ、その深い意味を認識しているとは到底思えず、戦争への思考があまりにも希薄なのだ。
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