約166万票を集めた石丸伸二の躍進は危うい予兆だ
「真正保守」の再興を求めて歴史の地下水脈を辿り直す本連載では、石橋湛山に続いて、後藤田正晴とその系譜を再検討するつもりだが、今回はその助走として、一度迂回して、いまの東京の風景に目を向けてみたい。看過できない政治的な変調が起きているように感じるからである。
小池百合子知事の任期満了に伴う東京都知事選は、7月7日に投開票が行われ、現職の小池知事が3期目の当選を果たした。56人もの候補者が乱立するかつてない選挙戦であったが、蓋を開けてみれば、42%以上の得票率を得た小池知事の圧勝だったと言える。得票数では2位が前広島県安芸高田市長の石丸伸二候補、小池知事の対立候補とみなされていた前立憲民主党参議院議員の蓮舫候補は3位に終わった。
告示から投開票日まで17日間にわたって繰り広げられた首都決戦は、候補者をめぐるスキャンダルや、新しい形態の支援運動や、街頭演説への視線など、日本中の耳目を集めたと言えるのであろうが、私は醒めた目で見ていた。それは、作家の髙村薫が次のように慨嘆したことに通じるのかも知れない。
《そして、日本でも都政そっちのけの東京都知事選があり、現職がなんなく3選を果たしたが、首都のこのバカ騒ぎの空疎さはそのまま日本社会の沈滞の証だろう》(サンデー時評「首都の騒動、世界の惨状、日本人を足蹴にする地位協定」、『サンデー毎日』2024年8月4日号)
この時評のなかで髙村は、ウクライナとガザで戦争がいっこうに終結の気配を見せない世界情勢、海上自衛隊と防衛産業の癒着、沖縄での米兵犯罪への対応に象徴される日米の不平等関係など、国内外の深刻な事態を見つめている。そして、様々な緊迫する現実に取り囲まれた私たちが、都知事選において、内外の危機や都政のありよう、そして政策が目指すものを見極めることを充分にせず、選挙戦に興じるさまを辛辣に切り取ったと言える。
都知事に求められる「格」
ありていに言うと、今回の都知事選の候補者は、いずれも都政を担うに足るような政治家ではなかったと思う。
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source : 文藝春秋 2024年9月号