イザベラ・ロッセリーニが『教皇選挙』(2024)の修道女役で、アカデミー助演女優賞にノミネートされた。出番は合計で8分弱しかない。台詞の数も非常に少ない。しかし、印象は力強い。寡黙で、沈着で、威厳と風格に満ちている。その知性も疑いを容れないが、押しつけがましさは微塵もない。一度姿を見ると、眼の底に残像が宿りつづける。

彼女の図抜けた映画的遺伝子は、あらためて指摘するまでもないだろう。父が名監督ロベルト・ロッセリーニで、母が大女優イングリッド・バーグマン。国境も婚姻制度も超えた「世紀の恋」からもたらされたDNAは、尋常なものではない。1952年、ローマに生まれたイザベラ・ロッセリーニは、19歳でニューヨークに移住した。
映画デビューは76年の『ザ・スター』だが、観客が度肝を抜かれたのは、やはり『ブルーベルベット』(1986)で放った電撃的な存在感ではないか。
つい最近、78歳で他界したデヴィッド・リンチが撮ったあの魔術的傑作で、ロッセリーニは、クラブ歌手のドロシー・ヴァレンズを演じていた。
映画の舞台は、ノースキャロライナ州のランバートンという小さな町だ。父危篤の報を受けて帰省した大学生のジェフリー(カイル・マクラクラン)は、病院からの帰り道、切り落とされた耳を町の野原で拾う。
謎と暗闇のイメージに縁取られた話はそこから始まるのだが、ジェフリーは事件を探っていくうち、ドロシーに遭遇する。彼女は、フランク(デニス・ホッパー)という狂った悪党に夫と息子を人質に取られ、言いなりにされていた。
ドロシーは、憎悪と依存の混在状態から抜け出すことができない。フランクは彼女をアパートの一室に軟禁し、ヘリウム・ガスや覚醒剤を吸飲して、慰みものにする。そのグロテスクな光景を、クローゼットに身を潜めたジェフリーが、息を殺して見つめている。
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