山本五十六 愛人へのラブレター

前坂 俊之 静岡県立大学名誉教授
ライフ ライフスタイル 歴史

 山本五十六に愛人がいたことは、1954年4月18日号の「週刊朝日」が「山本元帥の愛人 軍神も人間だった!」で報じるまでは、全く知られていなかった。記事では愛人本人が登場しているが、これをもとに“提督の恋”を振り返りたい。

山本五十六 ©共同通信社

 1941年12月8日の真珠湾攻撃。その直前、山本五十六連合艦隊司令長官は家族に密かに別れを告げるため、瀬戸内海・柱島の連合艦隊司令部から急遽上京した。

 東京・青山南町の自宅で一夜をすごしたのは12月3日。家族6人一緒の夕食では、山本は何も喋らず、黙々と箸を動かす子供たちをじっと見つめていた。

 12月8日未明の真珠湾攻撃の成功で日本中がわきかえり、山本五十六は一躍、国民的英雄となった。全国から手紙が殺到したが、本人が一日千秋の思いで待ちこがれていたのは愛人、河合千代子からのラブレターであった。

〈方々から手紙などが山のごとく来ますが、私はたったひとりの千代子の手紙ばかりを朝夕恋しく待っております。写真はまだでしょうか〉(12月28日)

 山本はこの頃、五日とあけず、せっせと千代子へラブレターを書き送った。千代子からも、「呉局気付、軍艦『長門』山本五十六様」と、折りかえし手紙が次々に届いた。水兵たちも心得ていて、厚さ20センチにもなる手紙の束の一番上に、千代子のものをのせて持ってくる。山本は司令長官室で、巻物の長さを物差しで一生懸命に測っていたというから、何ともほほえましい。

 山本が初めて「梅龍」の芸名を持つ新橋芸者・千代子に会ったのは、1933年夏のこと。もともと、山本は新橋の花柳界ではモテモテだったという。

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source : 文藝春秋 2023年7月号

genre : ライフ ライフスタイル 歴史