本誌取材班の一人が怒鳴りつけられたのは、記事が校了する直前、7月26日のことでした。
「いい加減にしろよ! 副長官の業務を果たしてる時に、答えられるわけねえだろ。おんなじことを何回も何回も何回も。こんなくっだらねえこと。呆れて物も言えねえよ、ほんと」
本誌が木原誠二官房副長官の事務所に取材依頼状を送ると、質問内容を見た事務所スタッフは電話口でそうまくし立てたのです。相次いで報じられるボスのスキャンダルにストレスが溜まっていたのでしょうか。そのスタッフは、最後に大きなため息をつくと、電話を切ったのでした。
「総理の懐刀」と呼ばれ、官房副長官として絶大な権力を持つ木原氏。世間を騒がせているスキャンダルの始まりは、「週刊文春」が6月15日に報じた「愛人・隠し子」疑惑でした。その後も同誌は追及を続け、木原氏の妻が、かつて結婚していた元夫の不審死を巡り、重要参考人として警察から事情聴取を受けた疑惑なども報じています。
いまや多くのメディアが木原氏のスキャンダルを報じるようになりましたが、その反面、学生時代の素顔や、政治家を志した理由、岸田文雄首相に信頼されるようになった経緯、官邸での仕事ぶりなど、あまり知られていない部分もあります。木原誠二官房副長官はいったいどんな人生を送り、いかにして国家の舵取りを担うに至ったのか――。「文藝春秋」9月号に掲載した「木原誠二官房副長官のカサノバ伝説」は、そんな問題意識から取材をスタートさせました。
2021年の自民党総裁選では、岸田派の有望株として、公約を作るブレーンとして活躍。官房副長官に就任後は、岸田首相がぶちあげた「異次元の少子化対策」を考案するなど、主要な政策のほとんど全てに関わっています。今回取材した政治家や官僚たちからは木原氏の能力の高さを評価する声が多く聞かれました。
仕事面だけではありません。7月上旬、本誌取材班の一人は、「家族サービス」に勤しむ姿を目撃しています。妻と子供2人を連れて、電車で池袋駅に到着した木原氏。駅前のゲームセンターに向かうと、真剣な表情でクレーンゲームに挑戦していました。その後、4人でエアホッケーを楽しむ姿は、どこにでもいる“普通の家族”。スキャンダルの渦中でしたが、人目を気にすることは一切ありませんでした。家族の為を思い、良きパパとして家族を支えていたのです。
さらに取材を続けていくと、私立武蔵高校時代に起こした「暴力事件」や、某AV女優をはじめ、数々の女性と同時並行的に付き合ってきた過去など、知られざる素顔についても多くの証言が得られました。
木原氏の事務所には、これまで「週刊文春」が報じてきた疑惑に加えて、学生時代の暴力事件や女性との交際などについても質問状を送って事実確認を求めました。すると冒頭のように、事務所スタッフが怒りを露わにしたのでした。
折しも、事務所に質問状を送った7月26日は、永田町で「木原氏が記者会見を行い、これまでの疑惑に答えるようだ」との情報が流れていた頃です。ところが結局、今に至るまで会見は開かれていません。自らに向けられた疑問を「くっだらねえ」と切り捨てるのではなく、真摯に説明をする姿勢が求められているのではないでしょうか。
(編集部O)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル