サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
今回の数字:オウムアムアの離心率=1.199
2017年秋、ひとつの新天体が天文学者たちを色めき立たせた。当初、平凡な小惑星に過ぎないと思われたこの天体は、軌道計算してみると離心率が1.199にも及んでいたのだ。
離心率は天体の軌道の形状を表す数値であり、地球のように円に近い軌道であればゼロに近く、ハレー彗星のように細長い楕円だと1に近くなる。そして、1をはるかに超えた新天体の離心率は、この星が太陽系に属していないことを意味する。新天体は太陽の周りを回っているのではなく、はるか遠くから飛んできて太陽をかすめ、またどこかへ飛び去っていく宇宙の放浪者であったのだ。このような天体の発見は、史上初めてのことであった。
新天体には、ハワイ語で「斥候」を意味する、「オウムアムア」の名が与えられた。オウムアムアは、はるか遠い宇宙の情報を携えているであろうから、世界中の天文学者の関心が集まったのも当然のことだ。
葉巻状の奇妙な形状、不自然な加速などから、オウムアムアは地球外生命体の送り出した太陽系探査機ではないかとの説まで飛び出した。だが残念ながら、オウムアムアは地球から遠く離れた位置で発見され、あっという間に飛び去っていったため、十分な情報は得られていない。
このような貴重な天体と、再び出会えるのはいったいいつのことになるだろうか――と思っていたところ、なんと2年も経たぬうちに再び同じような天体の発見が報告された。アマチュア天文家のゲナディ・ボリソフ氏がこの8月に発見した彗星は、離心率が3を大きく超えており、2例目の恒星間天体に間違いないと見られているのだ。
このボリソフ彗星は、オウムアムアよりずっと大きく、今後1年ほどは観測可能だ。今度こそはと世界中の天文学者が待ち構えているから、ずいぶんと多くの新たな知識がこの彗星から得られることだろう。
残念ながらボリソフ彗星は、アマチュア向けの望遠鏡で見えるほどには明るくはならないとみられる。だが筆者はせめて秋の夜空を眺め、果てしない宇宙からの訪問者に思いを馳せてみたい。税率が8パーセントだ10パーセントだとかまびすしい世の中、時に壮大な宇宙を思うことは、決して悪いことではあるまい。あるいは天文学とは、そのためにある学問なのかもしれない――といったら、天文学者に失礼というものだろうか。
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source : 文藝春秋 2019年11月号