サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
化学分野の基礎となる周期表には、現在118種の元素が収載されている。原子番号が小さい方には水素、炭素、酸素などなじみ深いものが多いが、下の方はほとんど耳にする機会のない元素ばかりだ。実は、93番以降のほとんどの元素は巨大な実験装置を用いて人類が作り出したものであり、天然には存在しない。
だが、新たな元素の創出も、近年は停滞している。原子核が大きくなると、膨らませすぎた風船のように不安定になってゆき、大きなものはあっという間に崩壊してしまうのだ。このため、2010年に117番元素テネシンが作り出されて以降、新元素合成成功の報告はなされていない。
ではもう新たな元素を見ることはできないのだろうか。実は、大きい方ではなく小さい方の可能性も検証されている。たとえば2022年に、理化学研究所などの研究グループは、4つの中性子から成る「原子核」の観測に成功した。これは原子番号ゼロ、質量数四の元素とみなすことも可能だ。
また、原子番号がマイナスという元素も存在する。通常の原子では、陽電荷を持った陽子が原子核に存在し、それと同数の電子(陰電荷を持つ)が周囲を回っている。しかし、世の中には陰電荷を持った陽子(反陽子)や、陽電荷を持った電子(陽電子)という奇妙な粒子が存在する。この反陽子の周りを陽電子が周回すると、通常の水素原子とは正反対の元素である「反水素」ができる。何やらSFめいているが、この元素の原子番号は、マイナス1になる。
その後、反陽子2個、反中性子2個から成る原子核の周りを、陽電子2個が回っている「反ヘリウム」(原子番号マイナス2)も観測された。原子番号マイナス3の反リチウムは、反ヘリウムに比べて200万倍以上も生成しにくいと考えられており、しばらくは反ヘリウムが最小の原子番号を持つ元素の座に君臨しそうだ。
こうしたマイナス原子番号を持つ「反物質」は、普通の原子と衝突するとすぐに消滅してしまうため、通常は観測されない──はずなのだが、実は宇宙からやってくる粒子の中に、反ヘリウム原子核が見つかっている。あるはずのない粒子が、一体どこで作られたのかは全く不明だが、ダークマターと関連づける説なども提出されている。物理学者が頭を抱えるようなこの不思議な粒子が、宇宙の謎を解く鍵となるかもしれない。
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