発達障害は才能です

似鳥 昭雄 ニトリホールディングス会長兼CEO
勝間 和代 経済評論家
ライフ ライフスタイル ヘルス
「勉強嫌いで記憶力が悪い」「人の話が聞けない」
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似鳥さん(左)と勝間さん

「典型的なADHD」

 勝間 ご無沙汰しております。テレビ番組でインタビューさせていただいたのが2011年でしたから、10年ぶりの再会になりますね。

 似鳥 10年ッ!? いやぁ、こちらこそご無沙汰しました。勝間さんは10年前と同じで若々しいですね。

 勝間 それはお互い様です(笑)。変化があったとすれば、似鳥さんは最近、ご自身が発達障害であることに気づいたと、テレビで公表されましたね。実は私も数年前、自分が発達障害だとわかったんです。

 似鳥 えっ、勝間さんもそう?

 勝間 ええ。私たちがお会いした頃は、発達障害なんて概念は知られてなかったですよね。

 似鳥 なかった。発達障害なんて、全然知らなかったよね。3年ほど前にテレビで、発達障害をテーマにした番組をやっていて、カウンセラーの方が発達障害の種類や特徴を細かく説明していたんです。それを見ていたら、「なんか私とソックリだな」と気づいてね。文献を読んだり調べたりしたら確信した。最終的にカウンセラーの先生に直接診てもらって、「発達障害です」と。発達障害の一種で、ADHD(注意欠如・多動症)と言うらしいです。

 先生には「気がつかずにここまで来て、仕事も成功なさったのは良かったですね」と言われました。

 勝間 私の場合は、20代の頃から、すでに友人から指摘を受けていたんです。心理学や教育学に詳しい友人がいて、「あなたは典型的なADHDだ」と。でも、右から左に受け流していたんですね。そのうち他の人からも指摘されることが多くなったので病院へ行ってみたら、「軽度のADHD」だと。2017年のことです。

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人の話を1分も聞けない

 似鳥 日本人の10人に1人に、発達障害の特徴が見られるらしいですね。私は昔から「変わっている」とよく言われましたが、自分では「ちょっと変わっている」くらいだと思っていた。周りから見ると、極端に変わっていたようでしたが(笑)。

 勝間 ハハハ(笑)。「変わっている」なんて言われ慣れすぎて、もう聞き飽きちゃうんですよね。

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 似鳥 昔を振り返ると、とにかく勉強が嫌いで、人の話を1分も聞けない、記憶力の悪い子供でした。会話も下手で、先生にあてられても答えられないから、教室の隅っこで目立たないようにしていた。人前の発表が嫌いで、先生に「発表したくない」と泣きついたこともあった。

 勝間 私も、人の話を聞けない子供でした。授業中は飽きて居眠りするか、イタズラをするか。ガタガタと体を揺すり続けて、椅子ごとひっくり返っていた。基本的には先生に怒られっぱなし。ある時、「人に迷惑をかけるから怒られる。1人で絵を描いたり、本を読んだりする分には大丈夫だ」と学習しまして、そのように過ごすようになりました。

 似鳥 私はボーッとしているから、ずっとイジメられっ子でね。なんぼ叩いてもニヤニヤしているから、「ニタリ君」と呼ばれていた。中学の時は、休み時間のたびにトイレに連れていかれて、小突かれたり、殴られたりしてね。

 家に帰って家業の手伝いをしても、オフクロの指示をちゃんとできないから、毎日怒られた。米の配達中に同級生に見つかって川に突き落とされ、米一俵をダメにしたこともありました。

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 勝間 私も小学校の頃はクラスで浮いていましたが、中学から私立の学校に行ったら変わっている子が多くて、私のことは誰も気にしなかった。学校環境を変えたことでかなりラクになりました。慶應の附属中学だったのですが、おおらかで多様性を受け入れやすい空気があったのだと思います。

 似鳥 慶應なの? アタマいいんだなあ。私は小学校から成績はいつもビリ。オフクロに通知表を見せる時は、「1が一番良くて、5が一番悪いんだ」と嘘をついていました。小学3年生くらいでバレて、怒られた(苦笑)。高校の入学試験は、米1俵を校長先生の自宅に届けたら、合格にしてくれました。大学の入試も、色々な工夫をしてなんとか合格。一応、大卒ではあるけれど、実態は中卒レベルですよ。

 勝間 私の場合、記憶力はよかったんです。文字を読むとすぐに覚えてしまうので、同級生のノートさえ借りればテストで良い点が取れました。周りの子がなぜ覚えられないのか不思議だった。

 似鳥 あ、そこは全然違う。私は、皆がなんで覚えられるのかが不思議だった。今でもよく覚えているのは、「似鳥」と漢字で書けるようになったのが小学6年生の時だから。

 勝間 ただ、私は記憶力がよい反面、絵とか図形がものすごく苦手でした。脳の容量は限られているので、何かが得意だと、別の何かが不得意になっちゃうのかもしれません。

失くす・壊れる・忘れる

 似鳥 日常生活はどうですか? 私は整理整頓が苦手でね。今も机の上は書類だらけだし、家では脱いだ服やら何やらをそのへんにボンボン投げたまんま。

 勝間 整理整頓は私もダメ。あと、物を失くしてばかりですね。子供の頃、教科書を持ち帰ると失くしてしまうので、全て学校のロッカーに置きっぱなしでした。今日は対談用にヒールを持ってきて、さっきスニーカーから履き替えたんです。これが終わったらヒールはマネジャーに預けるんですよ。帰宅途中で必ずどこかに置き忘れるので、自宅に郵送してもらうんです。

 似鳥 私ね、今日はもう携帯電話を忘れた(笑)。毎日、家内や運転手に「携帯、持ってますか?」「薬、サプリ、眼鏡も持ってますか?」などと確認されるんですがね。持ち物をカバンに入れても、カバンそのものを忘れることがあるから、全部ズボンのポケットに入れるしかない。だから、かっこ悪いんだけど、いつもパンパンですよ。

 これは血糖値の測定器(ズボンのポケットから取り出して)でしょ。あと財布はこうやって(伸び縮みする紐を見せて)ズボンに括りつけて。よくポケットから落として引きずったまま歩くので、通りがかりの人に犬の散歩かってね(笑)。

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 勝間 私は家の鍵を必ず2つ持ち歩いていて、スマホ、パソコン、タブレットはそれぞれ3~5台は所有しています。とにかくよく「失くす・壊れる・忘れる」。

 似鳥 壊れる?

 勝間 よく下に落っことすので。ホホホ(笑)。

 似鳥 ああ! 落っこちるよねぇ。とにかく落ち着きがないから。私もトイレにスマホを落っことしたことがありますよ。やっぱり、そういう特徴があるんだなぁ。

 勝間 あと、私は発達障害の症状の一種で感覚過敏なんです。学校の給食は、匂いと先割れスプーンの感覚が嫌いで、食べられませんでした。いまだにダメなのがお店で端っこの席に座ること。喫茶店では壁際の席が怖くて、必ず開けた窓際の、隣に誰もいない席に座ります。

 似鳥 私の家は貧しかったので、出されたものは何でも食べていました。食べないと死んじゃいますから。そういう点は、勝間さんと違って鈍いのかもしれない。発達障害にはいろいろ種類があるみたいだから、ちがうところはちがいますね。

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性格ではなく、職業を変えた

 勝間 私は19歳で公認会計士の試験に合格して大学卒業後に会計事務所に入ったところまではよかったのですが、その事務所ですごく苦労しました。上司に言われた通りにやるのが苦手だったんです。無駄なこと、意味のないことをやりたくなかった。指示をされるたびに、「この業務は必要ないですよ」「別のやり方のほうが効率いいですよ」と口ごたえするから、上司と衝突してばかりでした。

 会計士は、数字が正しいか、間違っていないか確認するのが仕事で緻密な作業の連続ですが、私の監査は見落としが多かった。挙句の果てに帳簿そのものを失くしてしまって、お客様に迷惑をかけました。

 似鳥 私もそうなんだよ……注意散漫というか、大雑把だからね。

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source : 文藝春秋 2021年12月号

genre : ライフ ライフスタイル ヘルス