去る10月12日、「文藝春秋 電子版」に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会。以下、統一教会)に関連して神奈川県議が告発する記事が掲載された。告発者の小川久仁子県議は、7期連続当選を誇るベテラン女性県議だ。小川氏が訴えたのは、同じ選挙区の神奈川18区から出馬している自民党公認候補・山際大志郎氏の事務所に、複数の統一教会関係者が秘書として現在も働いているのではないか、という問題だ。
2022年7月の安倍晋三元首相銃撃事件後、経済再生相に再任されたばかりの山際氏は、統一教会との緊密な関係が発覚して事実上更迭された。しかし、統一教会の信者として活動していた秘書A氏は、事件直後の2022年秋号の「政官要覧」で一度姿を消したものの、その後に復帰。選挙前の現況届でも公設第一秘書であることを確認できる。加えて、山際氏が代表を務める自由民主党神奈川県第18選挙区支部の会計責任者をA氏が務めていることも、最新の収支報告書で確認している。
実は、私はA氏のことを以前から知っている。2000年代中頃、彼は統一教会の偽装勧誘グループ「伝道機動隊」のメンバーで、正体を隠して街頭で勧誘を行う青年信者の一人だった。所属は足立教会青年部。働きながら活動を行う「勤労青年」ではなく、出家信者に当たる「献身者」だった。私はA氏の勧誘現場に何度も介入し、被害者を救ってきた。また、A氏は地方議会選挙や国政選挙における選挙運動や、偽装ボランティア活動などを行う「ビギン」という青年部組織の班長も務めていた。教団が2010年に秋葉原で行った純潔デモでは、街宣車から拡声器でシュプレヒコールを挙げる姿を現場で取材し、撮影もしている。
にもかかわらず、山際氏はA氏と統一教会の関係について何の説明もせず、取材から逃れるように公の場に姿を現さない。A氏だけでなくB氏という私設秘書も統一教会信者だった疑いがあるのだが、山際事務所は「スタッフ全員に事実関係を確認したところ一人も当該宗教の信者でいるという人間は確認できなかった」と繰り返すばかりだった。こちらが「かつては信者だったのか?」「もう信者でないというのならいつ辞めたのか?」と尋ねても、一切説明を拒み続けた。
自民党は統一教会との「関係断絶」を宣言し、各県連は候補者に関係断絶を誓う誓約書に署名を求めた。自民党の誰もが茶番で統一教会問題にフタをしようとする中、小川氏は県議としてただ一人、山際氏の疑惑を追及してきたのだ。
「疑惑を抱えたままの山際議員を、胸を張って応援することが私には到底できない」
小川氏はそう訴えて、小泉進次郎会長率いる神奈川県連に山際氏公認の再考を求めた。ところが小泉氏は、「誓約書を提出しているので、再調査は必要ない」と却下。訴えを退けたばかりか、山際氏を含む党候補者の選挙を“妨害”したとして、小川氏に党員資格の2年間停止処分を科したのだ――。
小川氏は告発記事が公開される前日の11日に、自民党へ離党届を提出した。
「統一教会、辞めてますよ」
10月15日の公示で第50回衆院選が幕を開けたが、その日の朝10時から川崎市で行われた山際氏の出陣式は目を疑うものだった。
「報道関係者の入場をお断りしております」
会場前には大きな張り紙があり、記者クラブの代表以外の取材はシャットアウト。選対本部長を務める大島明市議から、本人の希望で選挙期間中に街頭演説は一切行わないとの通告まであった(その後、変更し岸田文雄元首相や小林鷹之氏が応援演説に来ていた)。
その大島市議から衝撃の発言が出たのは、出陣式後の囲み取材の場だった。山際氏本人の代わりに選対本部長として取材を受けるというのだ。山際氏は関係断絶を約束する誓約書に署名をしており、事務所からも教会関係者を排除したと説明する大島氏に、「秘書に二人いるじゃないですか」と私が問うと、報道陣を前にこう言い放ったのだ。
「あれ、もう辞めてますよ」
――二人とも?
「辞めてますよ」
――A氏とB氏?
「統一教会をね。秘書では、いますよ」
――統一教会を辞めてるんですか?
「統一教会、辞めてますよ」
――じゃあ元信者だったことは認めるんですか
「うん、元は、だって」
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