ドンキとニトリで、めざせ地球制覇! 創業者2人が本音トーク 

似鳥 昭雄 ニトリホールディングス会長兼CEO
安田 隆夫 PPIH創業会長兼最高顧問
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恵まれない幸せが運をひらいた

 似鳥 安田さんとは、もう20年ぐらいのお付き合いですね。ずっと私が尊敬する経営者です。

 安田 いやいや、うちがまだ小さな会社だった頃から、もうニトリさんは立派な業績を出していたじゃないですか。IKEAが世界で唯一征服できなかった国、それは日本ですよ。なぜなら、日本にはニトリがあったから。

 似鳥 ありがとうございます。今年お亡くなりになったダイソーの創業者、矢野博丈さんも交えて、3人でよく話をしましたね。不遇な環境から苦労して、それまで日本になかった新しい事業を立ち上げたのが、我々の共通点だと。

 安田 いま、売上に占める家具の割合はどれくらいですか?

 似鳥 約3割ですね。

 安田 もはやニトリは家具屋さんではないですね。それ以外のインテリア用品などがメイン。やはり似鳥さんという経営者は、タダモノではないと思っていました。

 似鳥 ドンキも、いまや生鮮食品まで扱っているでしょう。ユニーや長崎屋を買収して。

 家具・インテリア業界のトップを走り続けるニトリホールディングスの会長・似鳥昭雄氏(80)と、ディスカウントショップの雄「ドン・キホーテ」を運営し、2024年には2兆円超の売上高を記録したパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏(75)。

 日本の小売業界に一大旋風を巻き起こした創業者2人が、どうしたら成功することができるのか、さらには後継者問題、日本経済の展望について語りつくした。

20年来の親交がある似鳥氏と安田氏 Ⓒ文藝春秋

 安田 私は新卒で入った不動産会社が10カ月で倒産して、いきなり無職になりました。20代は麻雀で糊口をしのいで、30歳を目前にして、「泥棒市場」という小さなディスカウントストアを開きましたが、最初はさっぱり売れなかった。その後、40歳になる年にドン・キホーテ1号店を開業したものの、初年度売上は大赤字。それでも、ドンキは拡大成長を遂げて、いつのまにか同業者は消えていました。

 こんな私が成功できた要因は何だったのかと振り返ったとき、「運」の存在に思い至ったんです。

運は結果ではなく原因

 似鳥 私も経営には運が非常に重要だと思いますね。ニトリの成功は「運が7割、実力が3割」だとよく言っているんです。いや、運が8割かな(笑)。

 安田 似鳥さんもそうですか。無一文から2兆円企業を作り上げた私が、どうやって運を最大化してきたかを語ることで、若い方々に少しでも勇気や希望を与えられたらと思って、『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(文春新書)という本を出したんです。

 似鳥 拝読しましたけど、安田さんも私以上に苦労されて。

 安田 いえいえ。企業が成長するには、経営者がどうやって運と向き合い、コントロールしていくかが重要です。多くの人は、「運なんて偶然の産物だから、考えてもしょうがない」と思考停止してしまう。幸運だった、不運だったと言うのは結果論だと。でも、運は結果じゃなくて、原因だと思うんです。

 似鳥 実は私もね、『運は創るもの』(日本経済新聞出版)という本を出しています。運とは、それまでの人づきあい、失敗や挫折といった経験から醸成されるもの。決して偶然の産物ではないですよ。

 安田 運は、自らの行動によって変動する「パラメータ」のようなものですね。起点となる運への対応の仕方によって、幸運にも不運にもなる。運に向き合う感受性を磨くことが、経営者には重要なんです。

 個人としての運を「個運」、集団としての運を「集団運」と私は呼んでいます。経営者は、個運だけでなく、従業員、お客様、取引先など、みんなを幸運にしないと、業績は上がっていかない。つまり集団運を良くすることが重要です。

 似鳥 すごくよくわかります。私もね、大学出て広告会社に入って、営業マンをやりましたが、月50万円のノルマが達成できなくて、半年でクビ。仕方なしに、親や知人から100万円借りて、23歳で似鳥家具店を立ち上げました。

 ところが、私は人見知りなもんで、接客がサッパリ。結婚すれば従業員を雇わなくていいかなと、8回目の見合いでようやくつかまえたのが家内の百百代でした。彼女は愛嬌も度胸も満点で接客上手。おかげで商売が軌道に乗りました。これが運のツキ始めかな。

自殺ばかり考えた日々

 安田 それからトントン拍子に行きましたか。

 似鳥 最初は30坪の店で、暮らしていけたんですが、駐車場がなかった。それで借金して新しく250坪の店を出したら、近くに1200坪の競合店がオープンして、一気に資金繰りは悪化しました。赤字になり、金融機関から融資もストップされ、このままでは倒産だ、とその頃はうつ状態になっていましたね。毎日死ぬことばかり考えていましたよ。27歳のころかな。

 安田 実行する勇気がなくて良かった。でも意外ですよね。こんなに明るい似鳥さんが、自殺まで考えるなんて。

 似鳥 そのころ、知人から誘われて、アメリカの家具店を視察するセミナーに参加したんです。そこで人生観がガラッと変わりました。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

genre : ビジネス 社会 経済 企業