いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
昨年の本書への寄稿において筆者は「円安の背景には『仮面の黒字国』問題」と題し、「円安相場の底流には『円を売りたい人の方が多い』という需給に関するシンプルな事実がある」と論じた。具体的には、いくら毎月公表される国際収支統計において大幅な経常黒字を稼いだとしても、それは「統計上の黒字」に過ぎず、「実務上のキャッシュフロー」がプラスであることを保証するものでは無いため、つぶさに統計を紐解いていけば実は日本から流出している外貨の方が多いのではないかという問題提起を行った。
実際、2024年、日本の経常黒字は約+29.4兆円と過去最大の黒字を確保したものの、それを受けた25年の円相場が大幅な円高になったかといえばそうではなかった。23年や24年も歴史的に見れば巨額の経常黒字を記録したが、2年連続で160円を突破する円安に直面した。もはや、「経常黒字大国である」という事実だけで、円相場の頑健性を図るのが難しいことは間違いない。

遂に頭打ちになるインバウンド
26年にかけても円が抱えるそうした需給構造上の問題は大きく変わらない。しかし、円の需給構造にまつわる新しい争点を挙げるとすれば、インバウンド需要を巡る近況には警鐘を鳴らしておきたい。
国際収支統計におけるサービス収支、その中でもインバウンド需要に支えられた旅行収支の黒字は24年に約+6兆円と過去最大を記録し、現在の日本にとって唯一と言って良い外貨の獲得経路である。ここが断たれると、同じサービス収支の中で赤字拡大傾向にある後述のデジタル赤字といったその他サービス収支の赤字に押され、元より存在する貿易収支の赤字も相まって円の需給構造は一段と売りに傾斜することが目に見えている。パンデミック終了以降、旅行収支の黒字は拡大が当然視されていたわけだが、これも立派なサービス「輸出」であり、「輸出」である以上、様々な事情を受けてどこかで伸びは鈍ってくることはある。
その状況は近づいているように思える。本稿執筆時点で最新となる7月の宿泊旅行統計を見てみよう。国内のホテルや旅館など宿泊施設における延べ宿泊者数は前年同月比▲1.4%と2か月連続のマイナスとなり、外国人、日本人のいずれも宿泊者数が前年割れとなっている。外国人の宿泊者数について言えば、7月は前年比▲2.5%であった。24年以降、パンデミック以前を超える訪日外客数の勢いが見られてきたが、25年に入ってからの頭打ち傾向は指摘せざるを得ない。また、宿泊施設の「販売された客室数」を「全ての客室数」で割った宿泊稼働率もやはり頭打ち傾向にある。
インバウンド需要が失速している背景としては23~24年と比較すれば円安がピークアウトしていることも影響していそうだが、海外経済環境の失速も効いていそうである。何より日本国内に目をやれば、観光産業を支える宿泊・飲食サービス業は人手不足が極まっており、いくらインバウンドの需要があっても支えるだけの供給が無いという制約もあるのではないか。25年6~7月に限れば、日本における大地震発生の噂もSNSを中心に大きく注目されたが、傾向的に鈍化していることには変わりない。
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