いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

世界秩序の変化を日本はチャンスに変えられるか。この問いに対する私の回答は「日本は変化をチャンスに変えるつもりがあるのか」という点に凝縮されます。
関税措置など、トランプ大統領の世界秩序への攻撃は法則や規則性がないように見えるかもしれませんが、底流には一貫した方向性があります。それは、東西冷戦後の世界秩序を支えてきた「新自由主義的な世界」の巻き戻しです。
では、この動きは日本にとって追い風なのか、向かい風なのか? 私は日本にとって追い風になると信じています。
まず、トランプ氏が破壊しようとしている世界秩序について、簡単に振り返ってみましょう。政府が経済や社会に介入する「大きな政府」のアプローチが行き詰まる中、1990年代、政府の意思決定や役割を縮小し、民間企業や各個人の意思や選択を重視する「小さな政府」という価値観、いわば「新自由主義」が世界標準システムとして受け入れられるようになりました。これは、世界を一つの大きな市場として捉え、企業が国境を越え、世界中どこでも一番効率的なサプライチェーンを築くことを奨励する価値観です。同時に、各個人が出生時の属性ではなく、自らの能力と個性で勝負する、つまり世界市民として活躍することを促す壮大な実験でもありました。
国際化とテクノロジーの共鳴効果も手伝い、新自由主義はわずか30年でアメリカだけでなく、世界を激変させることに成功しましたが、その弊害は大きなものとなりました。一つには富の格差が飛躍的に拡大したこと。もう一つは、有史以来、脈々と受け継がれてきた人種、宗教、性別、社会や文化、国家などといった属性への帰属意識をリセットするにはあまりに時間が短すぎたことです。
トランプ氏と彼の支持者が「Make America Great Again」と言う時、彼らは国境(=アメリカ)を取り戻し、世界市民的な価値観を否定し、伝統的な属性(例えば宗教や性別に基づく社会での役割)を再評価する必要性を訴えているのだと思います。
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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

