高市総理の秘密は「文体」にあり

総力特集 絶対安定多数は吉か凶か

三宅 香帆 文芸評論家
ニュース 政治 メディア

 切り抜き動画。これが選挙を左右する大きな要因になるとは、10年前に誰が思っただろう?

 2026年現在、私たちが生きるのは、スマホをひらけば動画が目に飛び込んでくる世界である。YouTubeやTikTokといった動画メディアだけでなく、Xをひらいても、インスタをひらいても、LINEをひらいても、ショート動画は流れてくる。何もしなくても動画に触れる世の中。それはまるで、無限に伸びる植物のようだ。昔、旅先で見たマングローブを思い出す。えんえんと流れてくる、切り抜き動画という名の、マングローブ。

三宅香帆氏(本人提供)

 

 選挙結果に動画メディアが影響を与えていると言われて久しい。

 2013年にインターネットを使った選挙運動が解禁されて以来、SNSは私たちの選挙結果への影響力を増してきた。なかでも動画の影響力が強く語られるようになったのは、2024年東京都知事選、兵庫県知事選。さらに2025年参院選では、はじめて投票前のネット情報収集源としてYouTubeがニュース媒体を超えた、と言われた。

 有権者は選挙で政党について調べるとき、動画を頼りにするようになっている。雑誌で書くのもなんだが、そういう時代の変化がたしかに、ある。

なぜ参政党の「動画戦略」は成功したのか

 この動画というのが曲者なのだ。私たちがいま目にする短い動画は、「切り抜き」と呼ばれるものがとても多い。

 切り抜きとは、長い動画のなかから面白いシーンや重要なシーンだけを抽出し、短い動画に再編集したもの。たとえば自民党が投稿した長尺動画のなかから、面白いシーンだけを抽出し、テロップをつけなおして、切り抜く。それを短い動画としてアップする。

 YouTube動画は再生されるだけお金が稼げる。広告収入は再生数に応じて増える。「切り抜き」で儲けるショート動画作成主は、再生数が多く儲かりそうな動画を探して、とにかく大量に切り抜き、大量のショート動画を作成する。AIで作成することも最近は多いという。

 それゆえに、とにかく稼ぐために、多く再生されそうな切り抜き動画を大量投稿するようになる。――この仕組みを利用して議席を伸ばしたのが、たとえば2025年参院選で話題を集めた参政党だった。

 2025年参院選において、参政党関連動画の再生回数は国民民主党関連動画の3倍以上――1.7億回にものぼった。こんなに再生回数に差がついたのはなぜか? それは参政党の動画が「切り抜き」動画になりやすかったからだ。参政党と国民民主党はほぼ同じ本数だけ動画を投稿していたという。しかし切り抜き動画が増えたことによって、参政党の動画が有権者の目に留まる数(再生回数)は3倍以上になった。それは3倍の人たちに接触する機会があった、ということでもある。

 田中角栄は握った手の数しか票数は得られないと述べた。が、ある意味、動画時代とは、「切り抜き」によって握手の回数を無限に伸ばせる時代でもある。

 稼ぐために「切り抜き」をイデオロギー抜きでとにかく大量投稿する人が大量にいる。2025年の選挙を経て、そのような構造を政治関係者は理解した。だからこそ、今回の2026年衆議院選挙でも、動画の影響は予想されたものだった。

 蓋を開けてみると、選挙結果は、たしかに動画の再生回数をきれいに反映したものとなった。

 自民党の高市早苗首相が「日本列島を、強く豊かに。」と語りかける公式動画。この再生回数は、公開から投開票日までになんと約1億6000万回にものぼった。これは3000万回再生の参政党、330万回の中道改革連合と比較すると、かなり多い。どの党も動画を有料広告にして再生回数を増やしているが、そのなかでも自民党の再生回数は突出したものとなった。そして選挙の結果はいわずもがな、自民党の歴史的大勝だった。

 だが再生回数が伸びたのは、自民党の公式動画だけではない。自民党の「切り抜き」動画が、大量に投稿され、大量に再生された。

 今回の衆院選関連動画のうち「切り抜き」動画を中心とする匿名投稿者の動画再生回数は、全体の55%にも上ったという。つまり私たちが見る動画のうち、半分以上は「切り抜き」動画――稼ぐために作られたショート動画が中心だ――ということになる。

 今回の自民党大勝を裏付けるかのように、高市氏は「切り抜き」動画に上がることが多かった。日本経済新聞の調査によれば、1800本近い動画で言及され、ポジティブな好意的動画が多い。これは石破茂首相時代とは異なる傾向である。

 そもそも、ショート動画の影響力が増えてからというもの、選挙ごとに話題になる党が変化しやすくなっている。イデオロギーの問題ではなく、支持するしないという問題でもないのである。

「切り抜かれやすい」言葉

 ではなぜ、高市氏はこんなにも切り抜かれるのだろう? 同じように動画を投稿しても、同じようにテレビに出演しても、「切り抜き」の頻度は異なる。なぜその違いが生まれるのか?

 私自身、わからなかった。その理由が。新聞に「サナ活」という言葉が躍った時には心から驚いた。石破首相時代には低かった支持率が、急に高くなったことにもとても驚いた。なぜ、高市氏の言葉は、動画空間を通して、これほど多くの人に――若年層にまで――届くのか。

街頭演説する高市首相 ⒸEPA=時事

 政治とは「政策内容」ももちろん重要ではあるが、それを伝える「言葉」が重要であることは誰もが頷くところではないか。

 これまで高市氏といえば、笑顔や声のトーンに注目が集まることが多かった。だが今回は、政治的主張の如何ではなく、彼女の「切り抜かれやすい」演説の「言葉遣い」に注目してみたい。なぜなら、いま影響を与えているショート動画とは、政治的主張への共感よりも、「切り抜いて再生回数が増えるかどうか」にのみ焦点を当てて切り抜かれているからである。

高市早苗と野田佳彦の演説を比較すると…

 演説で見える特徴は三つ。固有名詞(具体的な人名、地名、専門用語、キーワードなど)の使い方、異なる「界隈」に向けた言葉遣い、そして「してやってください」という呼びかけである。

 一つめは、固有名詞の使い方。たとえば、衆院選に向けた最初の街頭演説。これから選挙が始まっていく初日の重要な演説である。まさに「切り抜き」の対象になることも多い。

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source : 文藝春秋 2026年4月号

genre : ニュース 政治 メディア