三宅香帆 返信が読書を妨げる

三宅 香帆 文芸評論家
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 とにかく返信をしたくない。

 自分の欲望を言葉にするとその一点に尽きる。……と言語化してしまうと社会に白い目で見られそうな欲望はたしかに存在しており、どうしようもねえなと我ながら思うのだが、しかし本心なのだから仕方がない。とにかく返信をしたくない。とくにメール。

 しかしわかっているのだ、仕事ができる人は返信がはやい。そしてたしかに自分が返信をとにかく待っていると「うーんこの人は仕事ができないかもしれない」なんて思ってしまう。はい、わかっているのです。返信なんてはやいに越したことはない。さっさと返信しましょう。

 だがそれにしたって、思う。読書をもっとも妨げるものは、返信であるのではないか。

 現代人は読書しなくなったらしい。なぜ働いていると本が読めなくなるのか。いろいろ書いたが、まあ、常時仕事のメール返信をするようになったからだと言いたい。

三宅香帆氏(本人提供)

 本をひらく。メールが来る。返信をする。本をひらく。返信が来る。返信をする。本をひらく。

 こんなの、本が読めるわけがない。しかしそれでも、人は、メールを返信する。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

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