AI時代の労働と読書の哲学

フラットな日常にハレをどう連れてくるか?

千葉 雅也 哲学者・作家
三宅 香帆 文筆家、書評家
エンタメ 読書

 千葉 2024年は三宅さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が注目されましたね。『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』という同人誌がありますが、まさに急な「売れ」を経験された。タイトルが刺さりましたよね。

 三宅 ありがとうございます。「急売れ」の同人誌の作者である朱野帰子さんは私の友人です(笑)。千葉さんに『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を知っていただいていたなんて、嬉しいです。

 千葉 実際に僕も読んでみて、これはかなり本格的な歴史の本だなと思いました。「読書と労働の歴史」を明治から令和の現在までずっと追いかけている。字も小さくて、よくこれだけ売れましたよね(笑)。

 三宅 もともとは働きながら本を読むのが難しいという私の実感から始まった本でしたが、ちょうど書き始める直前によしながふみさんの『大奥』が完結して、歴史ものが好きな私は自分も時代史を書いてみたいと思ったんですね。でも驚いたのは、「読み進めても問いの答えがなかなか出てこない」という声が想像以上に多かったことでした。

 千葉 サスペンス構造がわからないということですか。

 三宅 そうなんです。私としては展開についてきてもらえるか不安なので、ミステリーのように問いを引っ張って引っ張って、答えは最後の最後に明かす形で書いたんですが、どうもいまは犯人を最初に明かすスタイルの方が多いらしい、読者からもそれを期待されていたようだと気づかされました。

 千葉 なるほど。僕が同時期に出した『センスの哲学』は芸術入門の本ですが、その間をとる感じかもしれません。「センスとは何か」の答えは、ある程度宙づりにするけど、でも一応の答えを最初に言っておく。それが現代的かなと意識的にそうしたんです。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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