センスを磨けば人生が変わる

千葉 雅也 哲学者・作家
東畑 開人 臨床心理士・公認心理師

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生きることと芸術は深くつながっている

 東畑 千葉さんが4月に出された『センスの哲学』(小社刊)、非常に面白かったです。どのような動機でこの本を書かれたのですか?

 千葉 一つ目の大きな狙いは、絵画、音楽、映画など様々な芸術のジャンルを横断する「全芸術論」を書くことでした。あらゆる芸術は要素の反復とそこからの逸脱で構成されていて、そこから芸術の面白さが生まれている。そう捉えれば、すべての芸術を論じることができる。まずそのことを説明したかったんです。

『センスの哲学』(文藝春秋)

 その上で、では人間はなぜ反復と逸脱がバランス良く配置されていること、あるいはそのバランスが崩れていることに惹きつけられるのか? それを解き明かしたかった。その問いに答えるために精神分析を援用しました。人はなぜ生理的な必要性を超えて何かをしたくなるのか、という「欲望」を説明できる学問的体系は、現状では精神分析しか存在しないと考えているからです。

 東畑 なるほど。『センスの哲学』ではまず、あらゆる芸術を「意味」の手前で、「リズム」として捉えてみよう、という提案がなされます。たとえば、絵画なら、何が描かれているかではなくて、どう描かれているか、色や形がどう配置されているかに注目し、作品「それ自体」を体験し、味わってみよう、と。

 でも、たいてい私たちは芸術作品を見ると、まずはこの作品は何が言いたいんだろう? この作品のメッセージは何なんだろう? と「意味」の次元で捉えようとしてしまいます。日常生活でも、建物を見れば、「これは一軒家だな」と思い、赤い果物を見れば、「これはリンゴだ」と認識します。「意味」にとらわれずにリンゴを「それ自体」として体験するとしたら、まずは赤い丸みを帯びた物体として現れてくるでしょう。表面は滑らかだけれども、少し固そうだ、上部には細い棒のようなものが飛び出ている。よく見ると、青みがかった部分もある……。

 そんな体験になるのでしょうが、「意味」から離れて、目の前にあるものを「それ自体」として感じることはなかなかに難しい。そう考えていくと、人間を縛っているこの「意味」とは何なのだろう? という疑問が湧いてきました。千葉さんは、どう考えていますか?

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source : 文藝春秋 2024年9月号

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