建築とは、人の記憶を後世に残すこと
(山本理顕氏が登場したグラビア「日本の顔」もぜひご覧下さい)
今年3月にプリツカー賞の受賞が決まってから、ありがたいことに国内外からたくさんの取材や講演の依頼をいただいています。先日も駐日ベネズエラ大使が事務所に来てくれて、今度行う講演のことや、現在の南米の住宅事情について話し合ったところです。
今回の受賞で嬉しかったのは、主催財団や審査員が「建築を通じて人々が集い、新たなコミュニティを生み出すことに貢献している」という点を高く評価してくださったことです。ビジュアル的な美しさを求めることはもちろん大事ですが、そのためにも、私は建物を通じてその地域のコミュニティを創出することを何よりも大切にしてきました。こうした強い社会的メッセージを含む私の建築は、賞には直接結びつかないと思っていたので、受賞の一報を聞いた時は驚きの方が大きかったです。
しかし裏を返せば、建物だけでなくその周辺のことを考える建築家が希少になってしまっているのかもしれません。
例えば日本では今、来年開催が予定されている「2025年大阪・関西万博」の工期の遅れが話題になっていますが、万博の会場計画からは、残念ながら地元住民の声を聴こうとする姿勢や周辺環境への配慮を感じることができません。
まず、地元住民の生活圏から遠く離れた大阪湾のゴミ処理場の跡地、夢洲(ゆめしま)を会場とした計画そのものに疑問を持ちました。万博のような公共性の高い事業の施設は特に、周辺に住む人々だけでなく将来そこに住む人々のことを考えて計画される必要があります。短期的な利益に走るのではなく、長い目で見て都市にどう貢献できるのかを考えなくてはいけない。交通アクセスも限られる夢洲で行われる万博が、大阪の人々にどのように貢献するのか──万博の準備・運営を行う万博協会や自治体の説明不足もあり、ビジョンが見えてきません。
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source : 文藝春秋 2024年8月号