AIにアートは可能か

塩田 千春 アーティスト
エンタメ テクノロジー アート

旧東ベルリン秘密警察の監視塔で今日も私は考える

 ドイツに渡ったのは1996年。気がつけば、日本よりこちらでの暮らしのほうが長くなっていました。

 日本の大学を卒業後、ハンブルクの美大に留学しました。そのまま拠点をベルリンに移し、今日まで、ヨーロッパを中心にさまざまな国や地域で活動を続けています。

 私が使うのは「インスタレーション」と呼ばれる手法。室内や屋外の空間全体を使った作品を作っています。だから私にとって、創作にはその場所に宿る物語が命です。ただの空間では、作品が生まれにくい。

 私のアパート兼アトリエは旧東ベルリンのプレンツラウアー・ベルクにある、もともとドイツの秘密警察の監視塔だった建物です。その昔、旧東ベルリンから旧西ベルリンへの逃亡者を見張っていた場所で、今でも壁の跡地が一望できる。よく見ると外壁には、そこから逃亡者に銃口を向けたであろう小さな穴が開いていたりするんです。そのような物語のある土地で暮らし、制作をすることが、私にはとても大きな意味を持っています。

 塩田千春の代名詞ともいえる、空間全体に黒や赤の糸を張り巡らした作品の数々が世界中で大きな評判を呼んでいる。2015年にヴェネチア・ビエンナーレの「日本館」代表作家に選出された塩田氏は2019年、森美術館(東京)の個展「魂がふるえる」で66万人以上を動員。同館で歴代2位の来場者数を記録した。

 キーワードを入力するだけでAIが絵を描く時代、芸術までも人間の手が生み出すものを上回ってしまうのではないかと懸念されている。塩田氏は、アートの現状と日本の未来をどう見ているのか。
(塩田千春さんが登場するグラビア「日本の顔」はこちら

塩田千春氏 ©文藝春秋

 空間を利用した作品作りを生業にしている以上、私はAIに対し、みなさんとは少し違う見方をしているかもしれません。空間とそこに秘められた物語は、AIには学習できないことでしょう。その場所から何を感じ、選び取るのか。それは人間にしかできない判断だと思います。だからこそ、常日頃から展覧会ではその土地に根付く歴史やそこで生きた人々の想いを掬い取り、視覚だけでなく、物語を内包した作品を作りたいと思っています。

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source : 文藝春秋 2023年9月号

genre : エンタメ テクノロジー アート