ヒトは“間違った推論”の力で言葉を覚える
私は認知科学の分野で「人はいかに言語を習得するか」を研究しながら、小中学生の「学習のつまずき」を見つけるためのテスト(「たつじんテスト」)の開発に取り組み、「生きた知識」とはどういうもので、どう習得できるのかを研究してきました。
すべての子どもが落ちこぼれることなく、いきいきと学べる環境を提供することが公教育の目標であるはずです。そうであれば、教育現場でまずやるべきなのは、現行の学習指導要領のどこで子どもがつまずいているのかを明らかにすることだと考えます。
多くの子どもが、とくに算数に関して、単元を理解するために必要な背景知識や認知能力をもたないまま学習し、内容が「生きた知識」として定着しない状態でさらに新たな単元を学習するという不幸な状況に置かれています。
通常の習熟度を測るテストでわかるのは「問題ごとの通過率」だけで、「つまずいている子がどこでつまずいているのか」はわかりません。それに対して「たつじんテスト」は、学習内容の理解に不可欠な前提知識や認知能力をもっているのかどうか、何が足りないのかを明らかにするものです。つまずいている子にとって、「誤答」であることより「誤答の仕方」こそ重要だからです。
こういう立場から子どもの学力を研究してきた私は、いま話題の人工知能(AI)、チャットGPTに、子どもたちが無防備のまま晒されてしまうのをとても危惧しています。
チャットGPTと子どもの教育
チャットGPTの登場は、私にとっても衝撃でした。2022年冬頃に学生たちが教えてくれたのですが、「ここまでできるのか」と正直驚きました。とくに翻訳では、不自然な文しか返してこなかった、かつてのAI翻訳とは比べものにならないほど自然な言葉を返してきます。しかも「高校生が書くレベルの英語で」といった細かな指示も可能で、そのまま課題として提出されても、先生もなかなか見分けられないでしょう。
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source : 文藝春秋 2023年9月号