ロッキード事件のキーマンながら公判中に死去した児玉誉士夫(1911~1984)。同事件の謎を検証してきた真山仁氏が、昭和の闇を駆け抜けた児玉を振り返る。
児玉誉士夫は、「正義」の人だ。尤も、但し書のある「正義」だが。
戦前は、中国で暗躍し、戦後は様々な政治経済の大事件に、その影をちらつかせた。国士、政財界のフィクサー、CIAのスパイ、暴力団とも繋がる「黒幕」等々……。その素顔は、未だ謎の部分が多い。
福島県生まれの児玉は、少年時代に極貧に喘ぎ過酷な労働を体験している。自由民権運動に傾倒した父親が、家財全てをつぎ込んで一家離散の憂き目を見た。そんな暮らしを通じて、彼は社会の矛盾や庶民を踏みにじる権力者に強い怒りを覚える。彼の「正義」の萌芽だった。さらに、父親に「武士道」を叩き込まれ、お国に身を捧げる覚悟を身につける。
肝が据っている児玉は、官僚や軍人に目をかけられ、愛国の先兵となる。常に過酷な場に身を置き、目的のためなら手段を選ばず、自らが信じる「正義」を貫いた。
児玉誉士夫
その「正義」は曲者でもあった。手に入れられるカネは躊躇わず奪い、上流階級の弱みを握ってカネを搾り取ることにも、痛痒を感じない。
一方で、惚れ込んだ人物には、徹底的に尽くした。
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source : 文藝春秋 2022年1月号