田中角栄/もう一つの顔「歩く六法全書」

特別企画 昭和魔人伝

田原 総一朗 ジャーナリスト
ニュース 政治 昭和史

「闇将軍」と呼ばれた男の強さの秘密

 1980年の冬、『文藝春秋』編集長の田中健五から電話があった。

「今度うちで田中角栄のインタビューをやるんですが、是非ともインタビュアーをお願いします」

田中角栄 ©文藝春秋

 ――田中角栄は新潟の尋常高等小学校を卒業後に工事現場で土方として働き、苦学の末に実業家として成功を収めた。1947年に28歳で衆議院議員に初当選。郵政大臣、大蔵大臣などを経て、1972年、東大法学部卒でエリートの象徴である福田赳夫との勝負を制し、総理大臣にまで登りつめる。その経歴もあって、「小学校卒の首相」「今太閤」などと世間からもて囃された。

 ところが首相在任中、立花隆によるレポート「田中角栄研究―その金脈と人脈」(『文藝春秋』1974年11月号)が発表された。この記事に端を発した金権批判の波は、あっと言う間に田中を呑み込んでいった。同年中に総理大臣を退任。1976年には、アメリカの新型旅客機の売り込みに絡んだ「ロッキード事件」で5億円を受け取ったとして逮捕・起訴され、自民党を離党し無所属議員に。政治の表舞台から姿を消した。それ以降マスコミには一切登場せず、不気味な沈黙を守っていたのだ。

 だがその間、田中の政界への影響力が衰えることはなかった。田中の自民党離党後も、田中派の議員は1977年末の74人から、1979年末には82人に増加していた。政治記者、政治評論家たちの間では「唯角史観」なる言葉が囁かれていた。これは「唯物史観」をもじったもので、何か事が起きると、その裏には必ず田中角栄がいるという意味だ。

 事実、大平正芳内閣は「角影内閣」、鈴木善幸内閣は「直角内閣」と称され、兜町の仕手戦から創価学会騒動に至るまで、仕掛け人は田中角栄だという噂が流れた。「闇将軍」「自民党の法皇」と称され、ライバルの福田赳夫は、田中を「化け物」と呼んで恐れていた。

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source : 文藝春秋 2019年8月号

genre : ニュース 政治 昭和史