57年前の紅白、生放送のドラマ……若き日の現場から「終活」まで、すべてを語る
2015年は戦後70年という節目の年でした。私のように長年、放送の仕事に携わってきた者にとって、実はもう1つの節目でもありました。NHKが日本でラジオ放送を始めて90年を迎えたのです。その記念すべき年に、私は文化功労者に選んでいただきました。記者会見では「テレビを文化だと認めてもらえたと思うと本当にうれしい」と話しましたが、あれは準備していたコメントではなく、本当にスッと口から出た実感でした。
私は“テレビ女優第一号”と言われるように、テレビ放送が始まった1953年にNHKに入りました。ちょうど20歳の頃です。
それから62年間、ずっとテレビにかかわってきましたが、この仕事に携わるようになるのは、特別な目標があったわけではなく、実は偶然の積み重ねでした。
NHKに入るまでは、オペラ歌手になりたいと思って音楽学校に通っていました。それに、女はお茶やお華を習って、お嫁にいくのが当たり前の時代。私もいずれ結婚して、お母さんになるのだろうと思っていました。
そんな頃、たまたま音楽学校の帰りに、銀座の交詢社で子ども向けの人形劇を見かけ、あまりに素晴らしくて感動しました。子どもたちもよろこんでいて、「こういう人形劇ができて、絵本を上手に読んであげられるお母さんになろう」と思ったんです。
それから家に帰って母に、どこで勉強すればいいかと相談すると、「新聞に出ているんじゃない?」と言われ、NHKがテレビ放送を始めるにあたって俳優を募集するという広告を見つけました。「ここなら人形劇や絵本の読み方を教えてくれるかもしれない」と思って応募しました。NHKはこの1日しか募集を出していないそうです。このとき6000人の受験者がいて残ったのは13人。まわりには綺麗な人ばかりで、筆記試験もできなくて、合格したときは「嘘でしょ」と思いました。
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source : 文藝春秋 2016年01月号