空約束の軍事支援で戦争継続をウクライナに強いている
我々はいま、ウクライナ戦争の報道を日々眼にしていますが、西側の主流メディアは、最も肝心な“現実”をきちんと伝えていません。西側陣営が直視できていない“現実”とは、米国がすでにウクライナ戦争で負けてしまったことです。
この戦争の勝敗は事実上、決していて、米国の敗北はほぼ確定しています。米国が十分な武器や弾薬を物理的にウクライナ軍に提供できないことが明らかになったからです。「貨幣を配ること」と「実物の製品を配ること」は同じではありません。膨大な額の軍事支援を約束しているのに、軍事物資そのものはウクライナに届いていないのです。そのため、ウクライナの「反転攻勢」は、ほぼ失敗に終わっています。
私は昨年6月の時点で、「『長期戦』で軍需品を消費し続ければ、『高度な軍事技術』よりも『兵器の生産力』が課題として浮かび上がってくる」「米国にとって『生産力』の問題がこれから重くのしかかってくる」(『第三次世界大戦はもう始まっている』文春新書)と指摘しましたが、グローバリゼーションによる「産業空洞化」という米国の弱点がここに来て露わになっています。
米国に対して、「国内の産業基盤」を維持しているロシアは、この点で優位に立っています。いざとなれば、「世界の工場」たる中国の支援も当てにできるでしょう。
この戦争で多くの人が見誤ったのは「ロシア経済の強さ」です。西側の制裁によってロシア経済は息の根を止められると見られていましたが、見事に耐え抜いています。
“現実”を認識できなかったのは、GDP(国内総生産)という時代遅れの指標に我々の眼が曇らされているからです。ロシアとベラルーシのGDPの合計は、「西側陣営」(米国、英語圏諸国、ヨーロッパ大陸諸国、日本、韓国)のGDPの総額のわずか3.3%です。ではなぜこの微々たるGDPで、ロシアはミサイルを生産し続けられるのか。問題は、経済の金融化、サービス産業化が進むなかで、GDPがもはや「生産力=真の経済力」を測る尺度として効力を失っていることにあります。
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source : 文藝春秋 2023年12月号