日本が抱える諸問題の根源は、出生率の低さにあります。人口減少を放置すると低成長になり、社会の新陳代謝がなされにくい。そのため「老人支配」が進み、自己変革のダイナミズムを喪失してしまうのです。
ではなぜ日本の出生率は低くなってしまったのか? その原因と処方箋を、順を追って見てみましょう。
武士が権力を掌握した13世紀から江戸時代にかけて、日本社会には直系家族が徐々に定着しました。子供のうち一人(一般的には長男)が家督を継ぎ、親と同居するという家族のあり方です。明治維新後、新政府がすべての家族に「長男相続」を義務付けたことで、直系家族が法律としても明文化されました。
直系家族は、知識や技術の伝承において有利です。また、長男以外は家の外に出るため、工場などでの労働力を確保しやすい側面があります。こうした直系家族のメリットにより、近代の日本は飛躍的に成長しました。
ところが直系家族はその継続性を重んじるため、いったん確立してしまうと自己変革する力が働かず、「老人支配」が進んでしまう。これが現在の日本の宿痾です。
ここで「世帯」と「家族」を区別する必要があります。現在、とくに都市部では、直系家族の典型である「三世代同居」はあまり見られません。しかし「核家族世帯」が主流でも、直系家族で確立された慣習は、今も残っており、それが少子化に影響を落としているのです。
直系家族では、子育ての負担は女性にのしかかる傾向があります。女性は「キャリア」か「子供」かの二者択一を迫られ、結婚前から重い決断を迫られます。また、子の教育に膨大なお金がかかると同時に、「老いた親の面倒をみる」という直系家族的な規範があり、親の介護の負担が大きくて子供を持つことをためらってしまうのです。「出産・育児」より「親の介護」が優先されるのは、まさに「老人支配」です。
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source : 文藝春秋 2023年2月号