大学入試問題と同レベルの中学入試問題『中学受験「だから、そうなのか!」とガツンとわかる 合格する国語の授業 説明文・論説文入門編』松本亘正

第137回

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
ライフ 読書 教育

 首都圏で中学受験が過熱している。その過程で、一部で教育虐待と言わざるを得ないような状況が生じている。この現象を見事に描いた漫画がある。高瀬志帆『二月の勝者──絶対合格の教室』だ。『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)2018年1号から連載し、2024年25号で完結した。単行本の累計部数は2023年7月時点で360万部を突破した。ドラマ化もなされ、2021年10月16日から12月18日まで、日本テレビ系「土曜ドラマ」枠で放送された。中学受験塾の吉祥寺校の校長・黒木蔵人を柳楽優弥氏、算数の教師・佐倉麻衣を井上真央氏が演じた。

 中学受験の過熱化に伴い、入試問題が急速に難化している。評者も実際に中学入試問題を解いてみたが、国語に関しては公立高校の入試より遥かに難しい。評者が客員教授をつとめている同志社大学の入学試験でも使える水準だ。受験カウンセラーの安浪京子氏はこんな指摘をしている。

〈中学受験未経験の親は「小学生が解く内容だし、教科書に毛が生えた程度でしょ」と思われるかもしれない。しかし、高校入試や国立大学の入試と同様の問題が出題されることもある。中学受験経験のある親は「5年生から勉強を始めて合格できた」と自身を振り返るかもしれない。しかし、中学受験の激化によって、昨今の入試問題の難化・範囲の広がりには目を見張るものがある。/(略)国語は50分で約6000字(芥川龍之介の羅生門とほぼ同じ文章量)、そこに設問の文字数が加わって約8000字を読んだ上で考えて解き、解答用紙に記入する必要がある。中には1万4000字を超える学校もあり、時間内に問題文を読み終えられない大人も多いだろう。説明文は新書からの出題は当然として、物語文で三島由紀夫の「豊饒の海」を出題した学校もある〉(「日本経済新聞」電子版、2024年11月19日)

中学受験の功罪

 安浪氏は中学受験の功罪についてこう述べる。

〈もちろん、中学受験に向けての勉強は、知識を増やし思考力を養い、学習習慣が身につき、精神的にも大きく成長するという素晴らしい面がある。同時にその場しのぎの暗記、雑な取り組みといった誤った学習法や、点数を取るためのカンニングを覚えることもあるが、何よりのマイナス面は勉強嫌いになることだ。学びは中学以降も続いていく〉

 評者も同じ意見だ。ただし、受験勉強が軌道に乗った子どもは勉強嫌いにはならない。

『中学受験「だから、そうなのか!」とガツンとわかる 合格する国語の授業 説明文・論説文入門編』松本亘正

 受験生並びにその保護者の間で『中学受験「だから、そうなのか!」とガツンとわかる 合格する国語の授業 説明文・論説文入門編』は、ベストセラーかつロングセラーだ。著者の松本亘正氏(1982年、福岡県生まれ)は、鹿児島のラ・サール中学高校を経て、慶應義塾大学総合政策学部を卒業した。大学在学中の2004年に中学受験専門塾ジーニアスを設立し、現在も代表を務めている。中学入試がどれくらい加速しているかが、本書を読むとよく解る。12歳の小学6年生が以下のようなテキストに取り組んでいるのだ。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2025年2月号

genre : ライフ 読書 教育