日本のバブル崩壊を超える社会不安が広がる
中国ではコロナ禍後に消費が冷え込むなか、これまで経済発展を支えてきた主要大都市の不動産価格が大きく下落した。不動産バブルの崩壊は金融危機に飛び火し、いずれ共産党の統治体制をも揺るがしかねない経済恐慌に突入していく――。
そう論じるのは、エコノミストの柯隆(かりゅう)氏(東京財団政策研究所主席研究員)だ。中国経済研究の第一人者である柯氏は、進行中の中国経済危機に警鐘を鳴らし、日本側も備える必要性を呼びかける。
中国ジャーナリストの高口康太氏、ルポライターの安田峰俊氏が、柯氏の素顔に迫りつつ、「恐慌中国」の実情を語り合った。
安田 柯さんは長年、地に足のついた中国経済分析で知られています。いっぽう近年は、文化大革命時代の硬直した体制への拒否感も公にされていますね。現在の習近平体制に対する厳しい評価も、そうした思いが背景にありそうですが、生い立ちとも関係があるのでしょうか。
柯 そうですね。私は1963年に南京で生まれて、実は文革末期に「紅衛兵」になった最後の世代なんです。さいわい、直接的な暴力行為には関与せずに済みましたが、眼の前で吊るし上げられる人を見たことがある。親族が下放(かほう)され、涙ながらに別れる姿も見ています。なにより当時は書籍が読めない時代でしたから、私はそれが辛かったですよ。
日本の「電気」に驚いた
高口 文革後、留学生として1988年に日本にいらっしゃいます。
柯 24歳のとき、名古屋のロータリークラブの方に身元引受人になっていただいて、愛知大学と名古屋大学大学院で金融を学びました。
実は、来日後の最大の驚きは「電気」なんです。ロータリークラブのみなさんから飲みに誘われた帰り、名古屋の街には深夜1時でも煌々と明かりがついていた。当時、故郷の南京は電力不足で、夜8時を過ぎれば真っ暗でしたから、異世界に来たような気持ちでしたよ。バブル真っ盛りの時期のことです。街を歩いていたら、見知らぬサラリーマンから、「(留学生だから)苦労してるだろう」と1万円札を渡されたりと、不思議なことが多い時代でしたね。
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