男がピアノなんて

復活拡大版27組 オヤジ編

反田 恭平 ピアニスト

NEW

ライフ ライフスタイル

親子のかたちは時代を映す。昭和59年から40年続いた長寿連載、一号限りの豪華リバイバル

 音楽家には、親がピアノ講師やヴァイオリニストだったりして、音楽の早期教育を受けてきた人が多いのですが、僕の場合、父は会社員、母は専業主婦。親族にも音楽家が1人もいない環境で育ちました。

 父は絵に描いたような昭和の頑固オヤジで、金融系で働いていた祖父に厳格な教育を受けて育ち、祖父と同じ大学を出て、就職。だから僕にも「同じ大学に進み、大企業のサラリーマンになってほしい」と願っていました。

 僕がピアノを始めたのは4歳の時でした。母が近所のヤマハ音楽教室の体験講座に連れて行ってくれたのがきっかけです。小学生になってからも別の教室に趣味で通い続けていたのですが、親父には「男がピアノをやるなんて」といった考えがあったみたいで、練習中に野球中継の音量を爆音にして対抗されたこともあったほどです。「下手な演奏を響かせるなんて近所迷惑」という理由で、練習が許されたのは夜7時半まで。でも親父の帰宅は9時以降なので、8時半までは練習していましたけどね。

反田恭平氏 ⒸYuji Ueno

 小学6年生からは桐朋学園大学音楽学部附属の子供向け音楽教室で本格的にピアノに打ちこむようになったのですが、親父は「こんなにレッスン代をかけてリターンはあるのか?」なんて言っていました。母が食費などを切り詰めてレッスン代を捻出してくれました。

 僕が音楽科のある高校を志望した時も親父は猛反対でした。ただ、「コンクールで1位になったら認めてやる」と言ったのです。そこで僕は奮起して複数のコンクールで1位を獲得し、「お願いです。音楽の高校に行かせてください」と、人生最初で最後の土下座をしました。ドラマ「半沢直樹」の大和田常務並みの立派な土下座です(笑)。頭を下げたくない僕と下げさせたい親父との戦いは、ここで決着し、ようやく進学を認めてもらえました。

 高校卒業後、プロデビューを果たしてからも、音楽で食べていけるのか親父は半信半疑だったようです。サラリーマンの彼からすれば音楽家がどのようにお金を稼ぐのかイメージが湧かなかったのでしょう。一方、母はおおらかでポジティブな人で「恭平ならできる」と、どんな時も励ましてくれた。僕が音楽を続けてこられたのはそのおかげです。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : ライフ ライフスタイル