中国への国際的評価は実は上がっている。だが……
今から80年余り前、中国共産党第7回党大会(1945年)において、毛沢東は居並ぶ幹部たちを前に、これから起こりうる17の困難を数え上げた。外国からの非難、国民党との内戦、天災の発生、暗殺――。それらを述べた後、17番目に挙げたのは、「その他予想外のこと」だった。最悪を列挙し尽くした後に、なお列挙できない予想外の最悪を残したのである。ここに、中国共産党にDNAとして組み込まれている底線思考を見ることができる。
時は下り、鄧小平も、そして習近平も底線思考を語ってきた。総書記となった習近平は憂患意識を強め、最悪の事態を想定する底線思考を一貫して強調してきた。「賢者は災いを未然に防ぎ、知者は将来の患いを図る」と述べ、備えを怠らず、微細な兆候から本質を見抜き、問題を未然に防ぐ重要性を説く。さらに危機の最大化を意味する極限思考という言葉さえ習は口にする。党内の理論家からは、厳しい状況の中でも主導権を失わず、最良の結果を取りに行くための自信さえも与えるのが底線思考だと解説される。
中国からみれば、現代という時代は、アメリカの対中封じ込め網の形成や内政干渉、世界経済環境の悪化、中国の主権・領土への挑戦、西側文化の浸透など、多岐にわたる外部リスクに直面する時代である。そのなかでも、特にアメリカの変化こそが、中国にとっての大変局を招きかねない、と考えてきた。

今、中国共産党の最高幹部、中央政治局常務委員を務める王滬寧は、35年前に一人の学者として記した『アメリカ対アメリカ』(未邦訳)の中で、肯定的な力がみられる場所に否定的な力もみいだせるアメリカでは、強さが弱さに反転し、社会が分断されていくと将来を予見していた。すなわち、当時冷戦終結後で権力の絶頂にあった国の行く末を北京は早くも見抜いていた、とも言えるのである。
それほどまでに慎重な中国は、確かに第一次トランプ政権以降の流動的な国際情勢の中でも、案外にうまくやっているところがある。対米関係をマネージしつつ、同時に自らの自律性を高め、「アメリカから離れる世界」という趨勢に、静かに備えている。
日本には、中国に関して三つの負のイメージがあるように見える。実のところ、中国専門家ですら、こうしたイメージを繰り返し再生産したりもする。第一に、中国経済は破綻に向かっている。第二に、中国では権力闘争が常に激しく、また最近では軍との関係にも緊張が見られ、それが危機につながりかねない。第三に、国際的には孤立を深めている。こうした決めつけは、必ずしも正しくない。今回は中国の実像に迫ってこれらのイメージを検証する。そこから見えてくる本当の中国の危うさは、習近平の下で国家の物理的な強靭さを高める一方で、判断の修正を行うための柔軟さに欠け、世界情勢の見極めにも誤算の余地を残すことにある。それが私たちの底線を破りかねない。
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