戦後、岸信介内閣で厚生大臣、文部大臣を歴任した橋本龍伍(はしもとりょうご)。その2人の息子が、元総理大臣・橋本龍太郎(りゅうたろう)(1937―2006)と、来る衆院選挙に高知一区から出馬する前高知県知事・橋本大二郎(だいじろう)氏だ。大二郎氏が明かす、数々の兄の後押しとは。
「そんなもん、消しちまえ!」
10歳下の弟を怒ることなど滅多になかった兄が珍しく声を荒げたのは、父が亡くなる時だった。
私が高校1年生の時だ。父はすでに喉頭癌を患い、手術で声帯も取り、最期の日々を自宅で過ごしていた。ある日、授業中に教師から「すぐに家に帰りなさい」と言われ、自宅に急いで戻ったものの、私は父の傍らでただ呆然としていたのだ。当時すでに会社員だった兄は、私に少し遅れて帰ってくると、ラジオが大きな音でかかっているのを聞きとがめた。その一言で、はっと我に返ったのを覚えている。
その父の通夜でのことだ。親類とおぼしき人が私に「あなたが春子さんのお子さんですか」と声をかけた。私の母は「正(まさ)」だ。「何かあるな」と感じた私が、父の遺品を整理していると、新聞記事が出てきた。「橋本龍伍は、朝鮮総督府の政務総監を務めた大野緑一郎の女婿」と書いてある。そこでようやくすべてが分った。
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source : 文藝春秋 2009年8月号

