ミッチー節で庶民から愛された元副総理の渡辺美智雄(わたなべみちお)(1923―1995)は平成7(1995)年9月15日、心不全で逝った。享年72。がんであることは公然の秘密だった。総理の座まであと一歩に迫った晩年は派閥の領袖として執念を見せたが、病床で「悔しい」という言葉を残して力尽きた。長男で衆議院議員の喜美(よしみ)氏は「責任感の強い人だった」と父を振り返る。
私が父の政治家としての気迫というか、執念を思い知らされたのは、米国でクリントン政権が誕生してからまだ1カ月もたたない平成5年2月11日の建国記念日から3日間、副総理兼外相として米国を訪問した時のことでした。
クリントン大統領にとっても新政権発足後としては初の外国要人の表敬訪問であり、日米同盟の再確認の意味でも双方の国にとって重要な会談でした。ところが、運悪く訪米直前になって父が40度近い高熱を出しました。前年の6月に手術を受けていたし、私も含めて家族はみな「体調が悪いんだから行くのはとりやめてほしい。無理しては元も子もない」と父に何度も進言したんです。
そしたら父は「そんなわけにいくか。俺にはまだやり残したことがたくさんあるんだ。お前ら家族のために政治やっているわけじゃないぞ」というだけで、一向に耳を貸そうともしませんでした。
政府専用機には医務室というのがありましたが、医者が常駐していなかった。そこで私が知り合いの医者に、出発日の深夜零時過ぎに急遽、訪米団に同行してもらうよう頼みました。
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source : 文藝春秋 1998年12月号

