片山さつき財務相インタビュー「財務官僚のマインドをリセットします」

片山 さつき 財務大臣
森 健 ジャーナリスト

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「責任ある積極財政」の矛盾を抱える内閣のキーマンに聞いた

(取材・構成 森 健・ジャーナリスト)

 10月22日午前、薄紫色のスーツに身を包んだ財務大臣が正面玄関の階段を上りだすと、居並ぶ財務省職員は拍手で迎えた。片山さつき氏の20年ぶりの“古巣”への帰還は大臣としてだった。

 発足から高い支持率の高市早苗内閣は「強い経済」を掲げる。戦略的な財政出動を明言し、「所得を増やす」「事業収益が上がる」経済を目指している。

 同時に、注意を払わねばならないのが財政運営だ。政府は令和6年度末で1133兆円もの債務残高を抱えており、野放図に国債を発行できる状況ではない。そこで高市首相は「責任ある積極財政」と矛盾含みの表現を使う。

 どこでアクセルを踏み、どこでブレーキを踏むか。難しい財政運営を任されたのが片山氏だ。元財務官僚で女性初の主計官を務めたのち、2005年の“郵政解散”選挙で出馬。2018年の第四次安倍晋三改造内閣では地方創生担当大臣にも就いた。片山氏はこの国の財政をどのように“運転”するつもりなのか。

 取材当日、財務大臣室の片山氏はグレンチェックのジャケットにコーラルピンクのワンピースという出で立ちだった。部屋に設置された東京金融市場のパネルには、円、株、債券が下落する「トリプル安」が表示されていた。

就任前から「財務大臣は片山さつき」と……

 ――今日は金融市場がかなり厳しい状況ですね。

 片山 立場上、市場の水準について言及できませんが、午前の会見で「憂慮している」と発言した通りです。

 ――就任から1ヵ月ですが、高市氏からはどういう風に打診があったのでしょうか。

 片山 総裁選前の8月くらいから、「片山さつき財務大臣ってあるか」と噂が流れていました。なので、高市さんから「お願いします」と内示をいただいた時には、ある種、空気のように引き受けました。

女性で初めて主計官、そして財務大臣をつとめることになった片山さつき氏 Ⓒ文藝春秋

 ――阿吽の呼吸で財務大臣を託されたと?

 片山 高市さんとの関係は、2021年に遡ります。当時、自民党が選択的夫婦別姓やLGBTなどについて、保守のラインを緩めてしまうのではと憂う仲間が安倍元総理をなんとなく軸にしながら集まったんです。大臣経験者の女性では高市さんと山谷えり子さんと私でした。安倍元総理はご存命でしたが、もし安倍さんが総裁選に出られないなら、高市さんが保守をまとめて出たらどうかと勧めたんです。

 最初は「できるかな」というご反応でしたが、高市さんも安倍さんと当選同期の大ベテラン30年選手です。参議院比例区の私は、47都道府県の約半分に後援会があり、特に強い県には私の封筒で高市さんのリーフレットを送って支持拡大に協力しました。敗れはしたものの、立派な成績で政調会長になられて私を金融調査会長に任命してくれました。以来、私のセミナーや色々な大会にいらした際には、マスコミがいても「高市早苗内閣になったら財務大臣は片山さつき」とおっしゃるような関係になりました(笑)。

 ――実際に任命されたとき、どんな心境でしたか。

 片山 約束を守る信義の人だなと。もし別のポストや何も打診がなかったらどうしようとも思っていましたから(笑)。同時に、高市さんは総裁になった瞬間「茨の道」だと表現しましたが、ならば私も同じ道だろうと。首相指名選挙の2週間ほど前から覚悟していました。

 ――「茨の道」とは財政運営の難しさですね。

 片山 高市政権の方針は「責任ある積極財政」ですからね。投資を積極化して潜在成長率を上げて、消費の勢いを取り戻す。他方の財務省は毎年増え続ける歳出をいかに抑えるかが本能、条件反射です。私は主計局の主計官も主査も経験しているのですごくよくわかりますが、日本の夢のある未来のためには、良い面は残しつつマインドをリセットしなければいけません。

 ――就任会見では、どちらかと言えば「責任ある」のほうに重心がある印象を受けました。

 片山 どちらにも偏っていません。ただ、世間から財務省は財政規律だけを信奉する「ザイム真理教」と揶揄されて、純債務(国債などの債務総額から政府の金融資産を差し引いたもの)の対名目GDP比データさえ公開していないと批判されていました。そこは、10月から様々なデータを開示するように見直しました。都合の良いデータだけ吹聴すると却って信用を無くすんですよ。

 官庁は民間と違って、マーケットに押されて戦略や商品、サービスを抜本的に見直すことはありません。世間からこれだけ批判されていても、財務省は特に無反応、無関心にさえ見える。大蔵省を財務省と金融庁に分けた結果、銀行や証券など民間との接点は金融庁の担当になりました。ですから金融庁のほうがマインドがわかる。ところが、財務省は主に他の官庁を相手にする役所になったので、外の空気に無頓着になったのかもしれません。世間に対して「実はよく考えてやっている」ことをもっとアピールしてもいいと思います。

 ――補正予算は規模次第では国債の発行に直結すると思います。ここはどうコントロールを?

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : ニュース 政治 経済