鈴木憲和農相インタビュー「農業は稼げてなんぼでしょ、というのが総理の考えです」

鈴木 憲和 農林水産大臣
奥野 修司 ノンフィクション作家

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政治家になって13年、ここを目指してやってきた

(取材・構成 奥野修司・ノンフィクション作家)

 高市早苗政権の発足にともない、鈴木憲和衆議院議員(43)が農林水産大臣に就任した。東京都出身、開成高校から東大法学部、そして農水省に進んだ元キャリア官僚で、2012年に父親の故郷である山形2区から出馬して当選。現在当選5回、石破茂内閣では農水副大臣などを歴任し、党では青年局長を務めたホープだ。

 昨年来の「令和の米騒動」を受けて、米価は大きな政治イシューとなった。石破内閣は小泉進次郎農水大臣の下で増産に舵を切ったが、今年度の主食用米の価格は下がるどころか、高止まりしたままだ。

「結局、日本の食を衰退させていくのは、農家から遠く離れた霞が関と、農業を軽視する永田町、つまり自民党なのだ」

 私は本誌2025年11月号に寄稿し、こう締め括った。その意味で鈴木氏はまさに“コメ失政”の当事者ともいえる。道半ばの小泉氏からバトンを受け、この国の農政をどこに導くのだろうか。その本音を聞いてみようと、11月18日、農林水産省の大臣室を訪ねた。


 ――早速ですが、鈴木大臣はこの国の「食」の未来にどんなイメージを抱いていますか。そして、その未来に向けてどんな舵取りをするつもりですか。

 鈴木 間違いなく言えるのは、需要を拡大すること。これが大前提ですね。これができなかったら、この国の農業の将来はないと思う。だからここに資源を投入します。これが第一です。その上で何ができるか。日本製は安心で高品質というブランド力が今もあります。これは農産品も同じだから、世界のマーケットで戦うことができるはずです。私は農業を日本の「稼ぎ柱」にしたい。稼ぎ頭とは行かなくとも、日本経済を支えるひとつの「柱」にすることはできると思います。

「稼いでね、稼ぐのよ」

 ――この前の山形での講演でも話していましたが、総理から大臣就任を電話で打診された時、「稼いでね、稼げるようにしてね、稼ぐのよ」と言われたそうですね。

 鈴木 あれは皆さんの前だからちょっと面白く言ったんですけど、ほぼあの通りです。

 ――怖いですね。

 鈴木 怖かったですよ(笑)。でも総理の意図は、守るのも大事だけど、やっぱり農業は稼げてなんぼでしょ、ということだと思うんです。「責任ある積極財政」もそうだし、腹をくくって投資しますということです。「再生産可能」の農業は当たり前で、これからは「稼がないといかん」に変えていきたいですね。

鈴木憲和農水相 Ⓒ文藝春秋

 ――大臣は東京育ちなのに、どうして農業分野に興味を持ったのですか。

 鈴木 父の実家が山形県南陽市で、1992年に山形新幹線が開通して、帰省する時に東京から直通で行けるようになったのが嬉しかったんです。でも、開通して町が良くなったかといえばそうでもない。ずっと「何が足りないんだろう」と思っていました。大学生になって、日本各地で地域性を形作るものの根底には、農林水産業があると気づきました。それなのに農業で働いている人は儲からずにどんどんやめていき、地域も衰退していく。これって政策が機能していないからではないか。農林水産業で働く人が、やりがいがある社会にしないといい国にならない。それなら、私が頭を使うところは農水省だと思いました。

 ――では、なぜ2012年に農水省を辞めて、政治の道へ?

 鈴木 農水省を辞めたのは、民主党政権になって役人の限界を感じたからです。当時、民主党政権の水田政策は戸別所得補償(販売価格が生産コストを下回ったときの農業補償制度)が公約でした。あの政策にはすごく疑問を感じて、それを「やれ」と言われても、自分の気持ちを整理して取り組めないと思ったんです。

 それに大臣が毎年のように替わって、時には正しくないのに「やれ」と言われることもある。それではやる気がなくなる。私が大臣になってやめる人もいるかもしれませんが、現場の皆さんと一緒にこの国を作っていきたいという思いは強い。政治家になって13年、ずっと農水大臣をやりたいと思っていたので、ようやくここまで来たという思いです。

作りすぎて暴落するのが一番のリスク

 ――石破前政権で、突然、米の輸出を増やすとなったときも、農水省は大変だったようですね。

 鈴木 米が余れば輸出すればいい、と発想するのはわかりますが、それが簡単にできるならとっくにやっています。米の輸出ビジネスを始めるなら、国が長期にわたって支えられるのかどうかが問われます。それなりの時間をかけて政策を練らないと無理なんです。

 ――農家が「再生産ができ、再投資ができる環境を整える」と就任会見で発言されましたが、それには米価の安定が必要です。一方で、「米の価格は市場に任せる」という。それで再生産可能な価格は維持できますか。

新米も高止まり Ⓒ時事通信社

 鈴木 私どもの考えは、まず需給の安定を図る、ということです。昨年の夏のように、お米が店に並ばないという事態は二度と起こしません。これは必ずやります。まだまだ日本には主食用の米の生産力がありますから、やろうと思ったら必ずできるんです。

 問題は、たくさん作りすぎて価格が暴落すること、これが農業経営の一番のリスクです。もちろん収入保険などで対応できる面もありますが、大規模農家が人を雇っても、「儲からなかったからやめてもらいます」では安定的な経営はできないし、事業拡大も難しいです。昨今の物価上昇にともなって、賃金を上げないといけないのは農業も同じです。それには価格を安定させて先を見通せるようにしないといけない。その価格はマーケットで決まるべきだと思っていますが、その前に、国が需給の見通しをしっかり示すことが価格の安定につながる。そのうえで生産者や流通に関わる人たち、そして消費者の考えをよく聞いていきたいと思っています。

 ――供給のほうはともかく、需要を安定させるって難しすぎませんか。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : ニュース 政治