「中国の新型統一戦争に屈しない」台湾国防部長を直撃《日本メディア初》

峯村 健司 キヤノングローバル戦略研究所上席研究員

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「我々の作戦計画は米国の介入を想定していない」

 2026年7月31日、台北市郊外の国防部。応接室に通されると、制服組の軍幹部十数人が壁際に居並んでいた。テレビカメラは3台。物々しい空気のなか、軍トップの国防部長(大臣)、顧立雄が入室すると、軍幹部が一斉に立ち上がり、整列した。軍歴を持たない文民の部長に対し、将官たちが背筋を伸ばす──その光景こそが、いまの台湾軍を象徴していた。

 顧立雄は1958年、台北で生まれた。25歳で弁護士となり、ニューヨーク大学で法学修士を取得。2013年に起きた陸軍の兵士に対する虐待事件では亡くなった兵士の遺族側弁護人を務めた。翌14年には対中融和路線をとった馬英九政権に対し、大規模な学生らの抗議デモ「ひまわり学生運動」が起きた際、立法院(国会)を占拠した学生らを弁護団として支援した。

 その後、政界に転身し、蔡英文政権では国家安全会議秘書長に就任。軍事は専門外だったが、自ら研鑽を重ねて米軍と対等に議論できるレベルに達し、軍内では「地下国防部長」と呼ばれるほどの存在となった。台湾の国防部長は、これまで基本的に軍出身者が任命されることが一般的だったが、軍と闘ってきた人権派弁護士をトップに据えることこそ、頼清徳政権の「文民統制」徹底の意思表示なのだ。

 台湾の安全保障政策の中枢を知る高官だけあって、メディア露出は極めて限定的だった。約1年がかりで取材の申し込みを続けた末、今回のインタビューが実現した。

「新型統一戦争」への対処法

 筆者が最も尋ねたかったことは、習近平政権が内部で検討している「新型統一戦争」への台湾軍の対処法だった。「新型統一戦争」とは、中国国防大学教授の劉明福(人民解放軍上級大佐)が提唱した「台湾統一」の新たなアプローチで、全面上陸ではなく海上封鎖と認知戦(世論や認識を標的とする情報戦)などを組み合わせ、台湾を屈服させて強制的に併合するやり方だ。筆者が監訳した『中国「軍事強国」への夢』(文春新書、2023年)で詳述している。

 これまで台湾軍が想定する台湾有事のシナリオは「全面上陸」が主流だった。ところが、最近の台湾軍の演習を分析していると、全面侵攻よりも「新型統一戦争」を想定したものが増えていることに気づいた。この仮説を冒頭から顧にぶつけた。

「『新型統一戦争』とは、中国軍が封鎖と認知戦を組み合わせることで、我々が抵抗しようとする意志を瓦解させることを狙い、全面的な上陸作戦を行う必要がなくなるというものだ。だが、我々が降伏しなければ、それは実行不可能となる。中国が封鎖を行ってきたからといって、我々が降伏することは絶対にあり得ない」

 封鎖がいかに世界を揺るがすか。数字が雄弁に物語る。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の推計では、2022年に台湾海峡を通過した貨物の総額は約2兆4500億ドル(約370兆円)。実に世界の海上貿易の5分の1超に相当する。なかでも深く依存しているのが日本だ。輸入の32%、輸出の25%、合わせて約4440億ドル(約67兆円)分の日本の貿易が、この幅わずか180キロの水路を通っている。台湾海峡が閉ざされれば、世界経済は即座に麻痺する。だからこそ顧立雄は、封鎖こそ中国にとって諸刃の剣だと見る。

「もし中国がこのような封鎖措置を講じ、即座に全面攻撃や上陸攻撃を行わない場合、世界はこうした封鎖にどう対処すべきか。想像に難くないが、世界は間違いなく中国に対して制裁を科し、こうした措置が引き起こす世界経済の混乱に対し、中国に多大な圧力をかけることになるだろう」

 そして顧立雄は、中国の習近平国家主席の足元に視線を移した。

「そのような状況下で、中国の政権が安定を保てるか、習近平の統治基盤が確保できるか、これは極めて大きな試練となる。習近平はこれらのことを考慮せざるを得ないと私は確信している」

弁護士出身の顧立雄国防部長(台湾国防部提供)

 顧はほとんど用意したメモには目を落とさず、雄弁に語った。「新型統一戦争」への備えが着実に進んでいることがうかがえた。

 上陸作戦を想定していた台湾軍がなぜ、「新型統一戦争」への対処に舵を切ったのか。複数の台湾軍高官らが、「転機となった」と口をそろえるのが、2024年12月9日から3日間、実施された中国の演習だった。中国が海軍と海警局の艦艇計99隻(海軍が3分の2、海警が3分の1)を東シナ海・西太平洋・南シナ海に一斉展開したことから、台湾軍内では「三重奏演習」と呼ばれている。同時に、台湾、バシー、マラッカ、そして宮古の各海峡を封鎖する演習もした。これは台湾の物流を麻痺させたうえで、救援に来ようとする米軍や自衛隊の艦艇を阻止する狙いがある。1996年の第三次台湾海峡危機以来、最大規模であるにもかかわらず、中国側は事前にも事後にも演習をしたことを公表していない。

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source : 文藝春秋 2026年10月号

genre : ニュース 国際 中国