浪費とはおさらば。子孫のため地球を洗い直す
「老人諸氏に一つの提案がある」
目前に迫った環境危機に対し、日本の危機意識はどうかしている。世界各国が目を醒まし始めたのに、この極東の、何の資源もない島国だけが、他人事のように平和呆けして豊饒の中でのんびり眠っている。
世界の人々の目を醒まさせたのは、当時18歳のスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさんという若い活動家である。そして日本でも漸く若者たちが危機感をもって声を上げ始めた。だが肝腎の日本政府は若者たちの声に耳を貸そうとしない。我々の乗っている地球の危機がすぐ目前に迫っているというのに、今日の経済、明日の景気ばかり考えて目の見えなくなっているこの国の「大人」は一向眠りから醒める気配がない。果してこんなことで良いのだろうか。
老人諸氏に一つの提案がある。
眠り呆けている壮年は放っといて、朝早くから目の醒めてしまう老人たちへの提案である。若者たちに応えてやろうではないか。声を上げ始めた若者たちに、賛意の旗を振ってやろうではないか。一緒に声を上げようではないか!
実際問題我々老人には、こゝ何十年地球を痛めつけ、こゝまでの環境危機を招いてしまったその犯人たる責任がある。古いアメリカの先住民の言葉に「地球は子孫から借りているもの」というものがあるが、我々老人はその大切な借り物を、汚し、傷つけ、めちゃくちゃにしてしまった。それをそのまゝ子孫に渡すことは大いなる恥だと考えねばいけない。我々には贖罪する義務がある。それを老後の、最後の我々の仕事にしないか。
NASAが宇宙衛星から撮った夜の地球の写真がある。この写真を見ると愕然とする。地球の陸地の大部分は暗黒だが、わずかに都市部だけが光り輝いている。北朝鮮は全き闇である。それに対して日本列島。恥ずかしい程の光の洪水である。列島全てが輝いてしまっている。
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source : 文藝春秋 2022年6月号