東京大学から大蔵省に進み、サンフランシスコ講和会議にも随員として参加、その後、衆議院議員となり池田勇人首相の秘蔵っ子として、常にエリートコースをひた走った元首相の宮澤喜一(みやざわきいち)(1919―2007)。元防衛大学校校長で執筆時には熊本県立大学理事長を務めた政治学者の五百旗頭真(いおきべまこと)氏が、生前の親交とその思い出を語った。
巷間知られている通り、宮澤喜一氏は大変な読書家であり、知識人でした。英語が堪能で英字の新聞や書籍を原文で読み、漢籍も知的土台としていました。

教養を具えた宮澤氏の生涯にわたるテーマは「品位ある政治」。礼節と品位を欠く権力行使を憎み、それに対峙する時には穏やかな笑みを湛えた外見とは裏腹に周囲も驚くほどの芯の強さを見せました。相手がアメリカであろうと、誰であろうと、筋の通らないことには「ナニ言ってやがる」と反発しました。宮澤氏は、プラグマティックな合理主義者でしたが、根の部分では理想主義者だったのだと思います。
宮澤氏が首相在任時、私は、当時総理府主催の「日米研究会」(牛尾治朗座長)のメンバーとしてしばしば官邸への提言を求められましたが、忙しかった時、総理府のスタッフについ文句を言ったことがあります。
「我々学者が意見書を書いたところで、首相がそんなものを本当に読むわけがないでしょう」
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source : 文藝春秋 2018年1月号

