9歳で米留学してイジメ抜かれた男のド根性人生
串焼き6本、“バカ盛り”ポテトフライ、もつ鍋の締めはラーメン……。2時間飲み放題付きで1人4500円の満腹コースだ。学生コンパさながらのメニューを、デンマークの国家予算並みの個人資産を持つ富豪から振る舞われようとは、ゲストたちは思いもよらなかっただろう。
7月に電撃来日したエヌビディアのジェンスン・ファンCEOが、日本のサプライヤー16社のトップを招いた親睦会だ。会場は東京・神田のやきとん屋。通称「やきとんサミット」として耳目を集めた。
AI戦争における唯一無二の武器商人──エヌビディアを一言で定義すればこうである。エヌビディアはファブレスと呼ばれる設計専業の半導体メーカーで、彼らが開発する画像処理半導体GPUは、AIデータセンター市場で90%以上のシェアを誇る。最先端のGPUなら単価は600万円と、量産の半導体としては史上最も高い。にもかかわらず、世界中のハイテク企業と政府がこれを奪い合っている。現状、AIに絶対的に不可欠な戦略物資だからだ。
この独占企業を率いるジェンスンは、日本のサプライヤーに何を語ったのだろうか。ゲストの一人、東京エレクトロンの河合利樹社長は路上で記者に問われてこう応じた。「あの……呑んでました! あはははっ」。いい具合に酒精が回った様子が、ユーチューブに記録されている。手にした余市のウイスキーボトルにはジェンスンの直筆サイン。ジェンスンは愛蔵の高級ウイスキーを何本も持ち込み、ゲストはもちろん店員にまで振る舞ったという。

それにしても、世界で一番ミシュラン星付き店が多い東京で、なぜやきとん屋を選んだのか。
サプライヤーとの親睦会は日本では初だったが、台北では数年前から繰り返し開かれている。現地では「兆元宴」と呼ばれており、理由はTSMCや鴻海精密工業など参加企業の時価総額を合わせると天文学的な金額になるからだ。台湾でも会場はやはり1人3000円ほどの手頃な郷土料理店である。
現地の経済誌編集者は言う。「ジェンスンは現地スタッフに、『人からよく見える場所』をリクエストしている。路面店で、窓が大きく開いているところだ」。神田のやきとん屋はまさにこの条件に合致する。
つまり規格外の親睦会は、あえて多くの人に見てもらうために催された「ショー」だったのだ。
これほどコスパの良いイメージ戦略はなかなかない。居酒屋を借り切るコストは高級ホテルよりはるかに安い。それでいて参加者に強烈な記憶を残し、メディアの報道を見た人に「すごい経営者なのに庶民的でナイスガイ」と好感を与える。
「コージサン、頼んだよ」
だが、単なるナイスガイが時価総額800兆円超の怪物企業を作れるわけがない。リアルな彼は、どんな人物なのか。その素顔に触れた経営者に会うため、岐阜県大垣に足を伸ばした。
IC(半導体)パッケージ基板の世界最大手、イビデン。13代目トップの河島浩二社長は、水色のラインが鮮やかな作業着で取材に応じた。その装いと率直でごまかしのない物言いが、技術とものづくり一徹で来た人であることを如実に語る。
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