私がNHKの朝のニュース番組からスポーツ番組の担当に移った1997年、巨人の宮崎キャンプで長嶋監督に挨拶をしました。

　話の間があいたので何か言わなきゃと慌てて「監督すみません、私、阪神ファンでして」と口走ったら、監督はチャーミングな口ぶりで「いいですよ、僕も阪神ファンでしたから」。幼少期に、“ミスター・タイガース”と呼ばれた藤村富美男さんがお好きだったとか。「野球を好きでいてくれたらそれだけでいいんですよ。嬉しいですよ」とフォローしていただき、国民的スターを前にこちらの緊張もほどけました。

　仕事で接していて驚いたのは、監督のセンサーのすごさです。インタビューの最中に、ケーブルを扱う新人スタッフがちょっとつまずくと話を止めて「大丈夫ですか？」。周囲の誰かがチラッと時計を見ただけでも感知するので、インタビュー中はスタッフ全員動かないようにと釘を刺していたほどです。

　神様のように平等で、その場にいる皆が笑ったり楽しんだりできるようにと繊細に気遣う方でしたね。

　NHKが借り上げた6畳一間で一人暮らしする私の話を面白がってくださり、「服が小さい押し入れに入り切らないからベッドの上に吊るしていて」とお話しすると、「そうなの、ベッドのサイズは？」。これに限らず、妙なディテールを聞かれることはよくありました（笑）。

　給料が少ないと思われたのか、いつも「ご飯食べてますか」「栄養足りてますか」と声をかけていただいて。そのたびに「大丈夫です」と答えていましたが、話の接穂に「そういえば最近お肉を食べていない」と言ったのを覚えておられたようで、後日、マネジャーさんから「ステーキハウスに連れていきたいと言っているので、この日正午に来られますか」と連絡をいただきました。

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