WOWOW会長の田中晃氏(70)は1979(昭和54)年に日本テレビに入社。プロ野球巨人戦などのスポーツ中継に携わり、長嶋茂雄がテレビ出演によって表現力を身に付けていく過程を目の当たりにした。
長嶋さんと初めて一緒に仕事をしたのは、1984年に開催されたロス五輪の時です。開会式は全民放が統一中継で、日本テレビが担当することとなり、当時浪人中だった長嶋さんを現地放送席にお呼びしました。

この大会では最終聖火ランナーが誰なのか、様々な噂が飛び交い、私たち日テレのスタッフは事前に情報を得られずにいました。
いざ当日、ランナーが姿を現した瞬間、長嶋さんが「(レイファー・)ジョンソンですね」。誰? と私だけでなく日本中の人が思ったことでしょう(笑)。欧米では“陸上の王”とされる十種競技の金メダリストでした。事前に候補を絞って調べていたのでしょうが、ぱっと名前が出て驚きました。今思うと、一貫して人の想像できないことをし、セオリーを超えるという長嶋さんの本質がテレビコメントでも出ていました。
以来、プロ野球中継の解説だけでなく、五輪や世界陸上、スーパーボウルなど他競技でも解説やリポーターをしてもらいました。時にはバラエティ番組の芸人のような体当たりの仕事も。長嶋さんは間違いなくテレビで鍛えられていきました。もともと言葉の天才ですが、表現力に磨きがかかった。こうした経験を積んだことが後に「国民的行事」「メークドラマ」といった端的に人を惹きつけるワードを生んだと感じます。

1991年には、それまで平均20%以上あった巨人戦のテレビ視聴率が17%台まで下がります。野球人気が落ちる一方で、Jリーグ開幕前夜であり、サッカーがかっこいいと言われていた時代です。
1992年秋、長嶋さんの監督復帰が決まると、野球中継のプロデューサーだった私との距離はそれまで以上に近くなります。“野球の人気を盛り返す”という戦いの大将が長嶋さん、テレビ方面隊の隊長が私という関係性になったのです。
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