AIの進化は“停滞”している

新連載 第1回

伊藤 錬 Sakana AI 共同創業者・代表取締役社長

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 アンソロピック、オープンAI、グーグルといった、巨大テック企業が角逐し、国家予算レベルの巨額の資本投入による覇権争いが過熱し続けているAI業界。サイバー攻撃への悪用リスクや安全保障問題、さらには「AGI(汎用人工知能)の到来か、バブルの崩壊か」をめぐる議論など、連日世界を騒然とさせている。

 この狂騒のまっただ中でがぜん存在感を増しているのが、元外交官という異色の経歴を持つ「Sakana  AI(サカナAI)」共同創業者・代表取締役社長の伊藤錬氏だ。巨大資本が支配する土俵とは一線を画す独自の戦略を掲げ、創業わずか1年で国内最速のユニコーン企業へと駆け上がった同社は、いまやAI業界のみならず、政財官界、そして海外の金融機関からの注目をも一身に集めている。

 ロンドンと東京の2拠点を往復し、開発最前線のリアルな手触りと、外交官時代に培った「インテリジェンス」、すなわち情報収集・分析力を武器にする彼が、時々刻々と変化するAI業界の真実を読み解く新連載。

 第1回は、世界をザワつかせた先端AI「ミュトス・プレビュー」の商用リリース見送り事件と、カオスの最前線で当事者が冷静に見つめる“AI停滞”の現実から紐解いていく。

伊藤錬氏(本人提供)

 今年4月、米アンソロピックが「ミュトス・プレビュー」の商用リリースを見送ったことが話題になりました。その高度なサイバー・セキュリティー能力が危険視され、「ミュトス級」などという言葉まで生まれ、最先端AIが再び飛躍的な進化を始めたかのような印象が広がりました。

 しかし、現場にいる私には、まったく違う景色が見えていました。数学やコーディングなど、個々の能力は伸び続けている。それでも、「モデルを大きくし、より多くのデータと計算資源を投入すれば、劇的な性能向上が続く」という単純な成長物語は、2025年に曲がり角を迎えたのです。一般の利用者にもひと目で分かる飛躍が少なくなったという意味で、私はこれを一種の“停滞”と捉えています。

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source : 文藝春秋 2026年10月号

genre : ビジネス 社会 テクノロジー