菅義偉「我が政権構想」

ポスト安倍「宰相の資格」を問う

菅 義偉 前内閣総理大臣
ニュース 政治 オピニオン
9月16日に召集される臨時国会で、菅義偉氏が第99代内閣総理大臣に選出される。座右の銘は〈意志あれば道あり〉。「国民の食い扶持を必ず作ることが私の仕事」と語る新総理は、どのような国を作っていきたいのか。ウィズコロナ、ポストコロナ時代の日本再生に向けた「政権構想」を明かした。
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菅氏

「政治の責任」

 今回、新型コロナウイルス感染症との闘いという国難に直面し、感染防止と経済活動の両立という難題の舵取りが求められている中で、安倍晋三総理が自身の体調によって、急遽辞任を表明されました。陣頭指揮の大役から退かれる総理の無念はいかばかりか、と拝察しています。

 私は安倍総理が辞任を表明される直前まで「出馬は考えていない」と申し上げてきました。それは来年の総裁選を想定した質問でしたし、そもそも最後まで総理を支えるのが官房長官の仕事ですから、「出馬を考えていなかった」のは、当然のことです。

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安倍首相

 しかし、突然の辞任表明で事態は一変しました。この国難への対応には一刻の猶予もなく、政治の空白は許されません。誰かが後を引き継がねばならない。果たして私がやるべきか――熟慮に熟慮を重ねました。それでもこの難局に立ち向かい、総理が進めてこられた取り組みを継承し、更なる前進を図るために、私の持てる力を尽くすべく、総裁選出馬を決意した次第です。

 喫緊の課題は、コロナ感染症との闘いをどう乗り切っていくか。今後も、欧米や中南米のような爆発的な感染拡大を絶対に防がなくてはなりません。もちろん、国民の命と健康を守ることが第一です。しかしその中で、感染防止と社会経済活動の再開を両立させなければ、国民生活が立ち行かなくなる。各国とも悩みながらこの両立に取り組んでいますが、これが、まさに「政治の責任」です。

 今年4〜6月のGDPは年率換算でマイナス27.8%と、過去最大の下落幅となりました。この数字を見ても、再び経済活動を全面的に制限することはできる限り避けるべきでしょう。特に瀕死の状態なのが、これまで地域の経済を支えてきた観光です。ホテルや旅館のほか、バス、タクシー、食材、お土産屋さんなどで約900万もの人々が働いていますが、ホテルの稼働率は一時期1割程度にまで落ち込みました。

 そこで安倍政権が、専門家のご意見を聞いた上でスタートさせたのが「GoToキャンペーン」です。感染対策をしっかりと講じているホテル・旅館を対象に、宿泊代金の支援を行ってきました。8月27日までの約1カ月間で少なくとものべ556万人の方々に利用頂きましたが、登録されたホテル・旅館で現在判明しているGoTo利用の感染者は僅か6名に留まっています。

 GoToに関しては、当初は大変厳しい意見を頂くことも多かったのは事実ですが、少しずつ国民の皆様のご理解を頂けているのではないでしょうか。今後も、感染対策をしっかり講じることを前提に、観光、飲食などコロナでダメージを受けた多くの業種を支援することで、国民生活を守っていきたいと考えます。

最優先課題は「地方創生」

 私は秋田の寒村のいちご農家に育ち、子どもの頃から「出稼ぎのない世の中を作りたい」と思っていました。政治家になってからも、地方を大事に思う気持ちは脈々と息づいています。総務大臣時代には、生まれ育った故郷に貢献したいとの多くの人の思いを実現する方法として、かねてから自分の中で温めていた「ふるさと納税」制度を立ち上げました。

 だからこそ、自民党総裁の任を引き継ぐことが私に許されるなら、「地方創生」を最優先課題の一つとして取り組みたい。我が国はいわゆる東京圏(1都3県)以外での消費が全体の7割を占めます。この中で、地方の所得を引き上げ、地方の消費を活性化しなければ、日本経済全体を浮揚させることは不可能です。

 2012年末に発足した第2次安倍政権においても、私は「観光」と「農業改革」を地方創生の2本柱として取り組んできました。特に官房長官として手掛けた外国人観光客の誘致拡大は「地方の経済をもっと元気にしたい」との思いからです。

 当初は法務省と警察庁の官僚が「ビザ緩和で治安が悪化する」と大反対でしたが、本当にそうだったでしょうか。外国人観光客が増えること自体は良いことのはずです。そこで私は当時の法務大臣と国家公安委員長の2人にまず了解をもらい、観光庁を所管する国土交通大臣と外務大臣を加えた5人の閣僚で、10分足らずで観光ビザの緩和を決めました。

 こうして政治が方針を明確にすれば、官僚は極めて優秀ですから、その方向で動き出してくれる。結果、外国人観光客は836万人(12年)から3188万人(19年)へと急増したのです。治安が悪化したという事実もありません。

 コロナによって観光は極めて厳しい状況になっていますが、「活力あふれる地方」を創っていくためにも、再び外国人観光客を増やしていきたい。そのように考えています。

 しかし、コロナが地方にとってマイナスばかりというわけではありません。テレワークなどが広がったことで、むしろ地方の可能性は広がったのではないでしょうか。ここで必要なのが「デジタル化」です。いまだに山間部や離島では光ファイバーが届いていない地域が多い。今回の2次補正予算では、私が主導し、離島も含めて全国に光ファイバーを敷設する予算(500億円)を確保しました。これによって、多くの地方でテレワーク、さらには遠隔で医療や教育を行うための重要なインフラが整備されていくはずです。

「当たり前」を見極める政治

 私が政治の道を志して以来、一貫して重視してきたのは、国民の皆様から見て、何が「当たり前」かをきちんと見極めるということです。世の中には、まだまだ数多くの「当たり前でないこと」が残っています。

 例えば、携帯電話の料金。いまや携帯は「国民のライフライン」にもかかわらず、世界で最も高い水準の料金が放置され、契約体系も複雑なものでした。そこで昨年踏み切ったのが、2年契約の途中で解約した場合の違約金を9500円から上限1000円に引き下げるという法改正です。

 それでも、市場の9割を占める大手3社は20%前後の高い営業利益率を出し続けています。大企業の利益率の平均は約6%ですから、まだまだ値下げの余地はある。ここにも切り込んでいかなくてはなりません。

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source : 文藝春秋 2020年10月号

genre : ニュース 政治 オピニオン