日本が戦争に突入する激動の時代、3度首相を務めた近衞文麿(1891~1945)。孫にあたる細川護熙氏が、祖父の思い出を綴る。
細川氏
祖父は、昭和12年6月に第1次近衞内閣を組閣。組閣後7月には盧溝橋事件、12月には南京占領という事態であったから、昭和14年1月の総辞職までの間、その前年に生まれたばかりの私をあやしてくれるような時間は当然なかっただろう。
15年7月には第2次近衞内閣を組閣、第3次の昭和16年10月まで首相を務めた。12月に開戦後は、殆ど常に憲兵隊の監視下におかれ自由の身ではなかった。しかし、昭和18年11月頃から終戦工作に向けて活動を活発化、20年2月には陛下にいわゆる近衞上奏文を奏上。終戦後、東久邇内閣で国務大臣に就くが、戦犯容疑を受け、12月16日自裁、54歳。私が7歳の時である。
そういうわけで、私には残念ながら祖父に関するはっきりした記憶は、ほとんどない。かすかに覚えているのは、軽井沢に行く途中の碓氷峠で、車酔いして祖父の膝にヘドを吐いたことと、軽井沢の祖父の山荘で、祖父がフンドシひとつで日光浴をしている尻をたたいて、いたずらしたことぐらいである。
近衛文麿
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source : 文藝春秋 2022年1月号